公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

植物免疫の攻防 フェーズ1
微生物の分子パターンを検知する「パターン誘導免疫」

川崎先生にまず素朴な疑問をぶつけてみた。そもそも植物の病気の原因は何?
「植物の病気の7~8割はカビ(糸状菌)が原因です。イネの大敵であるいもち病の原因菌もカビの一種ですね」と川崎先生。「残りが細菌とウイルス。ウイルスは主に虫が媒介していて、アブラムシやウンカ、カイガラムシ、ダニなどは虫自体が植物に害を与えると同時に、ウイルスを付着させて運んできます」

植物はさまざまな病害虫の被害にあう

では、なぜ菌やウイルスは植物をねらうのか? 彼らにとって植物に感染するとどんないいことがあるのだろうか?
「菌が生きていくには糖などの栄養が必要です。植物は光合成により空気中の二酸化炭素から糖を合成することができるので、病原菌は宿主である植物に寄生して糖を横取りし、増殖していくのです。ウイルスの場合は、人に感染するウイルスも同じですが、自分自身では増殖できないので植物や動物の細胞内にある複製装置を使って自分を複製していきます。だから、自分を増やすためには感染するしかありません」

感染経路は――?
「細菌の場合は気孔であるとか、幹や茎、葉についた傷跡から入っていきます。カビの中には表皮細胞をぶち破って入っていくのもあります。植物の丈夫な細胞壁も破ってしまうすごい力が働いているんですよ。化学的に細胞壁を溶かして侵入する菌もいますね」

こうしたさまざまなルートで侵入してくる病原微生物と植物免疫との攻防を、カビや細菌を中心に見ていこう。

病原菌からの防御の最前線として、植物が細胞膜表面に備えているのが、カビや細菌の構成成分に特有の分子パターン(MAMPs/PAMPs)*を検出する「パターン認識受容体」だ。

* MAMPs/PAMPs (Microbe/Pathogen Associated Molecular Patterns):カビの細胞壁に含まれるキチンや細菌の鞭毛タンパク質など、微生物や病原菌を構成する成分の分子パターンのこと

「例えばどの細菌も、動き回るための鞭毛を持っています。この鞭毛のタンパク質は、全体的には似ていますが、少しだけアミノ酸配列が異なっているために、ちょっとだけ形が異なります。その違いは分子パターンとして定義されています。つまり、細菌の鞭毛タンパク質には、Aパターン、Bパターン、Cパターンというようなわずかな違いがあり、そのいずれかのパターンを、カギ穴にカギがピタっと合うようにして受容体が認識すると、細胞内の情報伝達機構を作動させて免疫反応を誘発するんです。早い反応としては、細菌などは気孔から侵入してくることが多いので、まず気孔を閉じたりします」

植物の表皮にある小さな穴が気孔。植物は気孔を通して大気とのガス交換を行っている。その穴を一時的に閉じてしまうことで細菌を入り込めなくするのだ。

また病原菌は細胞壁分解酵素などを分泌して植物の細胞壁を分解しながら侵入しようとするが、植物も負けてはいない。リグニンと呼ばれる高分子化合物を分泌して細胞壁を厚くし、病原菌を閉じ込めたり、病原菌が入ってこないようにしたりする。感染した植物の葉っぱを見ると茶色く変色したものがあるが、これは植物がリグニンをつくって戦った跡だ。

「ほかにも、活性酸素や、ファイトアレキシンと呼ばれる抗菌性物質を放出して細菌の増殖を阻止したり、タンパク質を分解するプロテアーゼ、病原菌の細胞壁の成分であるキチンやグルカンを分解するキチナーゼ、グルカナーゼといった酵素を発現させて撃退したりもします。このように誘導される免疫反応が『パターン誘導免疫』(PTI)で、私たちの持っている『自然免疫』に該当します」