公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

病原微生物は「エフェクター」で対抗

こうした植物側の防御に対して、病原菌もしたたかだ。進化によって植物の免疫反応を阻止するタンパク質を獲得し、それを植物の細胞内または細胞間隙に送り込むことによって免疫反応から免れようとする。このタンパク質は総称して「エフェクター」と呼ばれる。

エフェクターはどんな方法で植物の免疫に対抗しようとするのか?
「エフェクターは、さまざまな方法により、植物の免疫誘導を阻止しています。例えば、植物免疫では微生物が持つMAMPsあるいはPAMPsをパターン認識受容体が検知して免疫が誘導されるのですが、パターン認識受容体に検出される前にエフェクターがMAMPsあるいはPAMPsと結合して、検知できないようにしてしまいます。ほかにも、パターン認識受容体の働きを阻害するとか、情報伝達を阻害するなど、さまざまな働きをしていることがわかっています。このように、病原菌は、エフェクターを使って、植物のあらゆる免疫反応を止め、自分が増殖しやすい環境をつくりだしています」

植物が繰り出す免疫に対抗して、
細菌や真菌もエフェクターで防御するんだって!

なかなかの“悪知恵”を駆使して生き残ろうとする病原菌だが、もうひとつ「TALエフェクター」という興味深いエフェクターもいる。これは植物のDNAに直接結合し、遺伝子を乗っ取って遺伝子発現を自在に誘導する機能を持っていて、植物の転写因子になりすまして、病原菌の都合のいいように植物の遺伝子が発現するように操作してしまうのだ!

「例えば白葉枯病菌のTALエフェクターは、植物の細胞内の糖をアポプラスト(細胞膜の外側の部分すなわち細胞壁および細胞間隙のこと)と呼ばれる場所に輸送するときに働くSWEETというイネの糖輸送体遺伝子をターゲットにして働きます。TALエフェクターによってSWEET遺伝子が転写され、糖輸送体がたくさんつくられると、細胞の中にある糖がどんどんアポプラストに放出されて、そこにいる病原菌に栄養が送り込まれて菌が増殖していくんですね。そんなエフェクターを病原微生物がどうやってつくり出すことができたのか、進化の不思議といえますが、TALエフェクターがどのように植物の転写因子をハイジャックしているかを明らかにするため、現在、研究を進めています」

なるほど、白葉枯病菌は、
糖をどんどん細胞外に出してもらって増殖するんだね!

余談だが、最近「ゲノム編集」が話題だが、創成期のゲノム編集技術の一つである「TALEN」は、このTALエフェクターがターゲットのDNAに結合する性質を利用して開発された。植物と病原微生物との攻防の研究が科学の進歩に大いに貢献している一例だ。