公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

“幹細胞動物園”をつくり、生物種で異なる時間の秘密を探りたい

ヒトとネズミの体節時計の違いは、HES7タンパク質の合成や分解などの反応速度の違いによることを示せたものの、では細胞環境のいかなる違いが遺伝子発現やタンパク質分解などの反応速度の違いをもたらしているのかについてはまだわかっていない。

「いろいろ仮説はあるんです。代謝速度(ATPの濃度)とか、細胞の大きさの違いなどもあるかもしれないし。今後はそれを探究していきたいですね」

もうひとつ、戎家先生が構想しているのが、合成生物学の手法を使ってさまざまな動物の時間を調べること。

「ゾウ1頭をまるまる実験対象にするのは難しくても、iPS細胞を使えば研究室内の試験管の中で調べることができます。いま世界中で多くの研究者がさまざまな動物のiPS細胞やES細胞をつくっているので、それを提供してもらい、“幹細胞動物園”をつくって、時間を比較しようと考えているんですよ。すでにヒトやマウス以外に、サイやウシなどの幹細胞を培養して実験しているところです」

生命をつくって研究する醍醐味はどこにあるのだろう?
「やはりつくることで原理が得心できるというところでしょうね。合成生物学の分野は広くて、有用物質をつくり出そうとか、合成肉にチャレンジしている人などもいますが、やはり個人的には生物現象を自分でコントロールできるようになりたいという思いが一番強いです。たとえば、ヒトの時間を持ったマウスの組織などもつくってみたい。
生物種間で組織の大きさが違うのはなぜか、あるいは形がなぜ違うのかなど、興味はつきません。たとえばヒトは5本指ですが、牛のヒヅメは4本。それを試験管内で再現できたらおもしろいと思いませんか。まだまだ発展の可能性の大きい分野ですよ」

小学校時代の先生が、昆虫を見せてくれたり、星の観測をしたり、一緒に化石掘りをするなど理科好きで、小さいころから生物系など理科にかかわる分野に進みたいと思っていたという戎家先生。「手に職を」という親の勧めもあり医学部への進学を考えたときもあったが、世界の秘密を探るような仕事をするには理学部だとのアドバイスを受け、理学部に進み、以来研究まっしぐらの生活という。

最後に読者へのメッセージをうかがうと――。

「自分のやりたいことがはっきりしている人というのはすごく強いものです。『ゾウが好きだからゾウの研究がしたい』でも、『外国に住んでみたい』とか、何でもいい。自分の人生においてやりたいこと、プライオリティーがはっきりしていればしているほど、まわりも具体的なアドバイスをあげやすいし、いろんなサポートを受けやすい。自分もそれに向かって動き出せます。ですから、自分が何をしたいのかを意識的に選んでいくことが大切。若いころって、何かを選んだら可能性が狭まるんじゃないかと思って、選ぶのが怖いという人もけっこういます。でも、選ばないと何も始まらないし、もちろん選んだあとで気が変わったっていい。選ぶことを怖がらないで、と言いたいですね」

ラボメンバーとともに。EMBLに来て感じるのは、ヨーロッパの研究者は初対面でもすぐ共同研究の可能性を探るなど、交流をとても重視しているということ。新型コロナの影響で対面での交流は思うに任せないが、オンラインでの交流はぐんと増えたという。バルセロナ旧市街に住んでいて、狭い道や古い建物が多く、毎日の散歩が楽しいそうだ。

(2020年11月27日更新)