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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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発生の仕組みを「つくって」調べる

戎家先生が取り組んでいる合成生物学とは、一言でいえば「さまざまな生命現象のメカニズムを、生命をつくることで調べる生物学」だ。

分子生物学が勃興しゲノムが明らかになってこのかた、生命科学は、生命を構成する遺伝子やタンパク質がどのような働きをしているか、たとえば遺伝子を壊したらどんな影響があるかなど、それぞれのパーツをバラバラにして、その機能を調べる手法が主流だった。これに対して、2000年ごろから盛んになってきたのが、生きた生命活動を人工的につくり出して、メカニズムを理解しようという合成生物学。いってみれば、目覚まし時計の仕組みを調べるために、ブザーやスイッチ、針、電池といった部品をバラバラに分解してそれぞれの機能を調べるのではなく、目覚まし時計が動き、セットした時間で音が鳴るメカニズムを、実際にパーツを組み立てることによって理解しようとするアプローチである。

「合成生物学」とは、生命活動を人工的につくり出して、メカニズムを理解しようという学問なんだって!

戎家先生は子どものころから「つくること」が大好きだった。
「レゴブロックづくりに熱中したこともあったし、簡単な電気回路をいじるのも好きでした」
大学院では哺乳動物細胞を使って遺伝子の転写の仕組みを解明する研究に取り組んでいたが、博士論文をまとめていた2008年ごろに興味を持ったのが合成生物学だった。
「調べる研究ももちろん興味深いのですが、私にはちょっとした不満があって、どんなにおもしろい仮説を立てたとしても、それを自然界が選択してくれなかったら意味がない。何度も予想をはずして、『私の予想のほうがおもしろいのに』って憤慨することもしばしば。そんなときに合成生物学のことを知って、とても新鮮で、『ぜひやりたい!』と思ったのです」

ちょうど京都大学で若手研究者を育成するためのプログラムがスタートして自分のグループを持てることになり、合成生物学をテーマとして掲げることにしたのだという。

「そのころの合成生物学は主に大腸菌などの単細胞生物を使って研究が行われていました。せっかく新しく始めるのだから、まだ誰もやっていないことにチャレンジしたい。そこで、これまで哺乳動物細胞を扱ってきた知識と技術を生かして、多細胞生物の発生の仕組みづくりをターゲットにすることにしました」

発生生物学で重要な3つの要素は「細胞の分化」「パターン形成」「形態形成」だ。戎家先生はこの3つを試験管の中でつくっていこうと考え、最初に取り組んだのが細胞の分化だった。