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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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学部1年から研究室に入り浸る

子どものころから「将来は研究者になりたい」と思っていたという金谷さん。何しろ幼稚園の卒園文集に、将来の夢は「研究者になること」と書き記したぐらいだ。
高校時代は化学・生物部に所属して生物の実験や研究にのめり込み、大学は迷うことなく理学部生物学科を志望。九州大学に入学してすぐに訪ねていったのが同大学基幹教育院・小早川義尚(よしたか)教授(現在は名誉教授)の研究室だった。小早川教授はヒドラの専門家で、ヒドラと緑藻との共生やヒドラの足盤形成のメカニズムなどをメインに研究していた。

「高校時代の部活でとても印象に残っているのがプラナリアの実験でした。プラナリアは肉食で、主として魚や昆虫などを食べるというのが定説ですが、『藻類などの植物も食べるのではないか』という仮説を立てて、夏休みなどは朝から晩まで、いろんな作戦を立てて実験したものでした。大学に入っても、せっかくならほかの人がやってないようなユニークな生物を用いて、定説とは異なる仮説を立てて研究したいと考えていて、それで思いついたのが、小早川先生がご専門のヒドラだったのです。入学式の2日後に小早川先生の研究室におうかがいして、その翌週ぐらいから実験をやらせてもらいました」

学部1年のときから小早川研究室に通ううち、さらに大きな出会いがあった。
「学部2年生のとき、小早川研究室に伊藤太一先生というショウジョウバエの体内時計の研究をされている先生が助教として着任されたんです。伊藤先生と話しているうちに、脳を持たないヒドラで体内時計とか睡眠について研究ができたらすごくおもしろいんじゃないかという考えが浮かんで、小早川先生にお伺いを立てました。小早川先生はかなり驚かれたようですが、興味深いテーマだとしていろいろな設備を整えてくださって、本格的に研究を始めることができました」

左端 小早川先生、右端 伊藤先生

ヒドラは刺胞(しほう)動物*の一種で、同じ仲間にクラゲやイソギンチャクがいる。刺胞動物のほとんどが海に住む生き物だが、ヒドラは淡水に生息している。体の大きさは1㎝弱程度で、神経細胞は持っているものの中枢神経システム、つまり脳を持たない動物だ。

* 刺胞動物:ヒドラ、イソギンチャク、サンゴ、クラゲの一部などを含むグループ。口を取り囲む触手には毒針を備えた刺胞があり、これで餌をつかまえる。体は円筒形かツボ形、傘形で、口に続いて大きな腔所があり、ここで消化するが、肛門はなく口から入れて口から出す。

ヒドラは無数の毒針(刺胞)がある細い糸のような触手を5~8本ほど持ち、体は細長いゴムのような円筒形で伸び縮みする。口は触手の付け根の中心にあり、足盤で水草や水中に沈んだ落ち葉などに付着する。

再生能力が高いことでも知られ、体を切断してもそれぞれの断片が完全体に再生する。ヒドラの名前の由来はギリシャ神話に登場する9つの頭を持つ水蛇ヒュドラで、ヒュドラも頭を切り落とされてもまた新しい頭が生えてくる不死身の怪物という。

「ヒドラは18世紀ごろから生物学の実験材料として用いられてきました。なんとショウジョウバエや線虫などよりも、実験動物としての歴史は古いんです。でも、無性生殖で増えるため系統の維持が難しく、ほかの生物に比べて遺伝子操作が難しいことから、徐々に生物学の表舞台からは遠ざかっていましたが、今でも世界各地の研究室で、再生研究や老化研究などの対象としてヒドラを使った研究が行われています。私も、脳を持たない動物で、体のつくりもシンプル、さらには小さくて比較的飼いやすいことから、研究にピッタリだと考えました」