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脳を持たないヒドラも眠る。独自のアプローチで睡眠のナゾに挑む~東京大学大学院 システムズ薬理学教室 金谷 啓之さんに聞く~

「睡眠は脳を休ませるためにある」というのが一般的な常識。ところが、脳を持たないヒドラにも睡眠と似た状態が存在し、それを制御する因子が、哺乳類や昆虫など脳を持つ動物と共通であることを明らかにしたのが金谷啓之さん。この研究は金谷さんが学部生時代に取り組んでいたもので、現在は東京大学大学院で人工的な眠りである麻酔のメカニズムの解明に挑んでいる。学部生時代からユニークな発想で研究を続ける金谷さんに、ヒドラの睡眠をめぐる研究のポイントや、研究の目の付けどころをうかがった。
睡眠のベーシックな謎は未解明

私たちは人生の約3分の1を眠って過ごしている。なぜそんなに眠るのか、睡眠がなぜ必要なのか? よく挙げられるのが、「睡眠は脳と体を休ませるため」。なるほど、たしかに起きている間は常に脳と体を働かせ、たくさんのエネルギーを使っているのだから、1日のうちの一定時間は休ませる必要があるとは誰しも思うことだろう。

しかし、眠っている間、体は休んでいるものの、脳は必ずしも全面的に休んでいるわけではない。例えばレム睡眠中は、起きているときよりも活発に脳が活動している。どうやら眠っている間に、記憶の整理や脳の機能の修復などが行われているようなのだ。

睡眠をめぐっては、世界各地で最新のテクノロジーを使って実に多くの研究がなされているが、興味深いことに、「なぜ眠るのか」や「睡眠中に私たちの脳に何が起こっているのか」といった根本的な疑問に、いまだ完全な答えはないという。ただ、人間に限らずハエや線虫に至るまで、脳を持つすべての動物が睡眠をとっていることから、睡眠と脳の機能との密接な関係については疑いようがないと考えられてきた。

ハエや線虫も眠るんだって!知ってた?

では原始的な神経系しかない、脳を持たない動物は睡眠をとるのだろうか? そんな疑問から、「ヒドラが睡眠をとるのか?」という大胆なテーマにチャレンジしたのが金谷啓之さんらの研究グループだ。その研究成果は、2020年10月、アメリカの科学雑誌「Science」の姉妹誌である「Science Advances」に掲載され、ヒドラにも睡眠様状態が認められること、そして睡眠のメカニズムが、動物が脳を獲得するのに先立って形成された可能性があることを世界で初めて実験的に明らかにしたものとして注目された。

研究当時は九州大学理学部生物学科に在籍中。こんな大発見を、学部生時代に成し遂げた金谷さんは、いったいどんなきっかけで研究を始めたのだろうか?

金谷 啓之(かなや・ひろゆき)

東京大学大学院医学系研究科 システムズ薬理学教室

2016年3月山口県立山口高校卒業。20年3月九州大学理学部生物学科卒業。同年4月より東京大学大学院医学系研究科システムズ薬理学教室所属。高校時代から化学・生物部に所属し、数々の科学コンテストに入賞。17年九州大学山川賞。18年第25回日本時間生物学会学術大会優秀ポスター賞。19年日本学生支援機構(JASSO)2019年度優秀学生顕彰学術分野大賞。