公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

ヒドラの睡眠にかかわる遺伝子を探せ!

さて、マウスやショウジョウバエ、線虫を用いた睡眠研究からは、睡眠制御に関与する「睡眠遺伝子」と呼ばれる遺伝子が複数存在することがわかっている。ヒドラにも、睡眠制御にかかわる遺伝子があるのだろうか?

「それを解明するため、数多くの遺伝子の発現量を網羅的に解析できる『マイクロアレイ』という技術を用いて、断眠させたヒドラのすべての遺伝子の発現量を調べてみました。すると、212個の遺伝子の発現量が断眠によって変化していて、その中には、ショウジョウバエの睡眠遺伝子として知られている「Shaker遺伝子」や、マウスやショウジョウバエ、線虫で睡眠制御との関連が指摘されている酵素(PRKG1)が含まれていたのです。薬剤を用いてこの酵素の活性を変化させたところ、ヒドラの睡眠の制御に関与している可能性が認められました」

さらに、ヒドラの中で遺伝子がどのように働いて睡眠に関与しているか、Shaker遺伝子やPRKG1酵素以外にも、進化的に保存された、まだ知られていない機構があるのではないかを調べたいところだが、ヒドラの場合、ねらった遺伝子の機能をノックアウトするなどの遺伝子操作は容易ではない。

「そこで協力をお願いしたのが、大韓民国・蔚山(ウルサン)科学技術大学校のChunghun Lim先生です。彼はショウジョウバエの睡眠の専門家で、伊藤太一先生の留学先のラボの同僚でした。ショウジョウバエなら遺伝子操作が容易です。ヒドラの睡眠に関与する遺伝子と同じ働きをすると考えられるショウジョウバエの遺伝子を機能阻害して、ショウジョウバエの睡眠量に影響が出るかどうか検証していただきました。その結果、ヒドラの断眠で影響を受ける複数の遺伝子が、ショウジョウバエの睡眠制御に関与していることが明らかになったのです」

Chunghun Lim先生

異なる生物種間で、同じ機能をもつタンパク質を
作り出す遺伝子のことを
「オルソログ(相同遺伝子)」って呼ぶんだって。

一連の研究で、脳を持たないヒドラにも睡眠が存在すること、さらにその分子メカニズムが脳を持つ動物と共通していることが明らかになった。

「ヒドラに睡眠が存在するということは、おそらく進化の過程で動物が脳という中枢神経システムを獲得する以前から睡眠は存在していて、睡眠は脳の有無にかかわらず、神経システム自体に宿るベーシックな現象だといえそうです。とはいえ、『ヒドラがなぜ眠るのか?』という疑問に対しては、まだ明瞭な答えを出せていません。ただ、睡眠を阻害したヒドラは細胞の増殖が低下してしまうので、ヒドラが自分の体を維持し成長していくために、睡眠が何か重要な役割を果たしているのではないかと考えています」