第2回受賞者

ユタ大学 Distinguished Professor
キム・サンワン氏
キム・サンワン氏経歴
- 1963年
- ソウル大学校にて化学の学士号取得
- 1965年
- ソウル大学校にて物理化学の修士号取得
- 1969年
- ユタ大学、ヘンリー・アイリング教授の論文指導のもと、化学の博士号取得
- 1971年
- ユタ大学バイオメディカルエンジニアリング研究所および材料科学工学科のバイオマテリアルの博士研究員
- 1969 – 1971年
- ユタ大学材料工学およびバイオメディカルエンジニアリング研究所の博士研究員
- 1971 – 1977年
- ユタ大学材料科学工学科の研究助教
- 1974 – 1977年
- ユタ大学応用薬科学科の助教
- 1977 – 1980年
- ユタ大学薬学科の准教授およびバイオエンジニアリング学科の非常勤准教授
- 1986 – 2006年
- ユタ大学Center for Controlled Chemical Delivery所長
- 1980 – 2000年
- ユタ大学薬学および薬化学の教授、バイオエンジニアリング学科の非常勤教授
- 2000年 – 現在
- ユタ大学薬学・薬科学のdistinguished professor
- 2002年 – 現在
- ユタ大学バイオエンジニアリング学科のdistinguished professor
米国ユタ大学の薬学、薬化学およびバイオエンジニアリングのdistinguished professorで、ハイドロゲル、生分解性薬物複合体、自己制御性DDSおよび刺激応答型ポリマー研究の第一人者の一人。500報以上の論文執筆、35の米国特許を取得。これまで130人以上の研究者を指導しています。
1999年には、Institute of Medicine of the National Academiesのメンバーに、2003年にはNational Academy of Engineeringのメンバーに選ばれています。
また2004年「the Research Achievement Award-Pharmaceutical Sciences World Congress 」、2003年「Rosenblatt Prize」「Ho-Am Prize」、2002年「AACP Volwiler Award」など多くの著名な賞を受賞。
受賞理由
キム・サンワン教授は、バイオマテリアルおよび薬物送達分野における先駆者として、常に世界をリードする研究成果をあげてこられました。人工心臓の研究で著名なユタ大学医学部のウィレム・コルフ教授とともに抗凝固機能を有する多糖類であるヘパリンを固定化した坑血栓材料を世界に先駆けて開発し、天然の高分子と合成高分子のハイブリッドバイオマテリアルという新しい分野を開拓されました。
さらに、この概念を薬物送達分野へと展開し、グルコースと特異的に結合するレクチンというタンパク質を組み込んだ世界初の自己制御型インシュリン送達システムの開発に成功。これは、ポンプやセンサーを組み合わせてデバイス化し、外部からのエネルギー供給によってデバイスを駆動するという従来の方法論とは異なり、生体信号であるグルコースに応答して、ハイドロゲル中に内包されたインシュリンが自動的に放出されるもので、外部からエネルギー供給の必要がない自己制御機能を持った「インテリジェント薬物送達システム」ともいうべき画期的なシステムです。
このインテリジェント薬物送達システムの概念は、今日、一大研究分野に成長しました。まさにキム教授の研究に端を発したものといえます。
キム教授はさらに、1990年代後半に遺伝子と高分子とをハイブリッド化した人工ウイルスの研究に着手しました。遺伝子治療では通常、生体内の細胞に遺伝子を導入するために天然のウイルスを使いますが、免疫反応を引き起こすなど安全性に大きな問題を抱えていました。これに対して、「安全で無毒の高分子で遺伝子をくるむ」という独自の発想による人工ウイルスは、従来のウイルスが抱えていた問題点を解決し、生体内の目的部位で治療用の遺伝子を働かせることに成功しています。
キム教授の開発したハイブリッドバイオマテリアル、そして遺伝子と高分子のハイブリッドシステムは、がんや糖尿病のみならず、再生医療の分野においても優れた遺伝子治療効果を示すことが明らかになっており、この点でキム教授の研究は、バイオマテリアル、組織工学、そして再生医療を結ぶ成果として大変重要な意味を持っています。
また多くの研究者の指導にも尽力し、バイオマテリアルの領域を牽引されてきました。
以上のことから、第2回テルモ国際賞に最もふさわしいとして選考されました。