第3回受賞者

トロント大学 教授
マイケル・セフトン氏

マイケル・セフトン氏経歴

1971年
トロント大学にて化学工学、応用化学の学士号取得
1974年
マサチューセッツ工科大学にて、E.W. Merrill教授のもとで、博士号取得
1974 - 1979年
トロント大学化学工学・応用化学科の助教授
1979 - 1985年
トロント大学化学工学・応用化学科の准教授
1985 - 1989年
トロント大学化学工学・応用化学科の学部長補佐
1985年 -
トロント大学化学工学・応用化学科の教授
1994年1月 - 7月
トロント大学化学工学・応用化学科の学部長代理
1995年2月 - 8月
トロント大学生体医用工学研究所の所長代理
1999 – 2005年
トロント大学生体材料・生体医用工学研究所の所長
2003年
トロント大学化学工学・応用化学科および生体材料・生体医用工学研究所のユニバーシティー教授
2004年 - 現在
トロント大学化学工学・応用化学科のマイケル・E・チャールズ冠教授

組織工学の先駆者で、生体材料、生体医用工学、再生医療のリーダーとして知られています。生体細胞を合成高分子と組み合わせて人工臓器および組織を作製する重要性に最初に着目しました。また、生体細胞のマイクロカプセル化に世界で初めて成功した研究者のひとりです。これは、カプセル化に用いる隔離膜が障壁の役割を果たすことで患者の免疫反応を回避できる、人工膵臓その他の組織の作製を視野に入れた技術です。世界最高峰の学術誌および国際会議での論文などを幅広く発表しており、米国特許および国際特許を数件所有しています。また、2014年にはGold Medal, Canadian Council of Professional Engineersの受賞とともに、National Academy of Medicineのメンバーに選ばれています。

受賞理由

セフトン教授は、今日、再生医療分野における最重要の課題である、生細胞と合成高分子とを組み合わせた「ハイブリッド型」の臓器あるいは組織構築の重要性を世界に先駆けて提唱した研究者です。セフトン教授は、膵臓でインシュリンを産生しているβ細胞を生きたまま、マイクロカプセル化することに世界で初めて成功しました。マイクロカプセル化することによって、膵β細胞は生体の免疫機構からの攻撃を回避し、長くその機能を生体内で維持することが可能となります。この様な細胞のマイクロカプセル化が端緒となり、その後、バイオマテリアルと組み合わせる形で心筋組織や脂肪組織などの再生が可能となり、本賞の趣旨であるバイオマテリアルと再生医療との融合分野が発展していくことになりました。その点で、セフトン教授の時代を先駆ける業績は特筆に値します。

さらにセフトン教授は、生体内に埋殖されるバイオマテリアルの組成を的確に制御することによって、その回りに構築される血管網の発達をコントロール出来ることを見出しました。この成果に基づいて、ベンチャー企業が創業され、創傷治癒分野を中心とした製品が既に実用化されています。

またセフトン教授は、これまで単に担体としての機能しか考えられていなかったバイオマテリアルの構造中に生理活性機能を付与する着想の元に、Theramerと呼ばれる一連の生理活性高分子をデザインし、創傷治癒分野において臨床開発に至っています。この様に科学技術面で卓越した成果を挙げられ、さらにはその成果の実用化までを率先して行われたことは、テルモ国際賞の趣旨に極めて良く合致していると言えます。

さらに、セフトン教授は、90年代に再生医療分野で世界的に活躍している多くの研究者を取りまとめる形でLIFEイニシアティブという組織を立ち上げました。この組織では、最終的に心臓丸ごとの再生につながるような再生医療のロードマップ作りを行い、バイオマテリアルを中核とする再生医療分野が進むべき方向性を示すなど、今日の分野隆盛の礎を築かれたことには、大いに敬意を表するところであります。

以上のような、セフトン教授の業績はテルモ生命科学振興財団第3回国際賞として最もふさわしいとして選考されました。