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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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折り紙から百人一首まで、好奇心旺盛な子ども時代

———子どものころはどこで過ごしましたか。

高校までずっと鹿児島市内で育ちました。ただ、ドイツ文学の研究者だった父の仕事の関係で、2歳から4歳までドイツで過ごしました。

———ドイツで暮らした思い出や影響はありますか。

記憶はほとんどないのですが、味覚の思い出は強く残っています。和食よりもジャガイモや酸っぱいパンが今でも私の懐かしい味です。大学時代1年間カナダに留学したことがあるのですが、白米や味噌汁がなくてもまったく平気でした。味覚って不思議だなという想いが今の蚊の味覚研究につながっている部分があるかもしれません。

ドイツにいたころ

———好きな遊びや趣味などは?

あらゆるものに興味を持つ子でした。本が好きで、赤毛のアンに始まって井上靖さんの歴史小説なども読みました。ピアノやバレエを習っていて、休日になると両親に美術展や科学館などによく連れて行ってもらいました。科学館でロケットのしくみに夢中になったり、ピンホールカメラを作ったり、いろんな実験をするのが楽しかったし、天体観察で流星群を眺め、わくわくしました。竹馬や一輪車を乗り回したりもしていましたね。
その中で高校生までずっと続いたのが折り紙です。ブロック遊びの延長で始めたのですが、1枚の紙から何でも作れるのがおもしろくて、小学校の3~4年生くらいからは近所の大人の折り紙サークルにも顔を出して、皆さんにおだててもらいながら続けていました。

ピアノは高校3年生までレッスンに通い、大学のサークルではピアノの会に所属。

地元の歴史館では甲冑(かっちゅう)を着ることができ、歴史が好きだったのでたまに訪れていた。

———自分でオリジナルな折り紙を考えたりしたのですか?

創作は得意ではなく、見本の折り図を見て作っていました。ユニット折り紙といって、たくさんの紙でパターンを作って組み合わせるタイプのものにも取り組み、数カ月間かけて蒸気機関車を完成させたこともあります。
当時すごく尊敬していた折り紙作家さんが津田良夫先生でした。「折紙コンベンション」という折り紙大会の集まりでいただいた、先生自作の編み上げ靴の折り紙は大切な宝物でした。これには後日談があって、研究者になって蚊の学会に参加したときに、国立感染症研究所の蚊の系統分類がご専門の偉い先生がいらしたんですが、それがなんと津田先生だったんです! こんな偶然があるなんてと驚きました。噂では、先生が主宰される蚊の講習会に参加すると、講義後に蚊の折り紙を教えていただけるらしいので、いつか参加したいですね。

小学4年生のころに作った蒸気機関車。折り紙を1000枚以上使って数カ月かけて作った。

———高校時代は、どんな部活に取り組んでいましたか?

百人一首に熱中しました。競技カルタは記憶力だけでなく瞬発力や体力も必要で、意外とハードなんですよ。走り込みや素振りもして、ジャージの膝に穴が開くほど練習をしました。全国大会の個人戦で、初心者の部ではありましたが2位に入ったのは嬉しい思い出です。

高校の百人一首部の集合写真(前列左から2番目)

———生物に興味を持ったのはいつごろでしょう?

授業では生物のほか、化学も数学も好きでしたね。この取材を受けることになって改めて思い出したのが、NHKで放送された『驚異の小宇宙 人体』シリーズです。中学校の理科の授業ですべてのシリーズを見たのですが、CGを駆使して紹介された人体のしくみはとても印象に残っています。すごく複雑なのに、それを司っているのは遺伝子のATGC*のたった4つの塩基だというのも不思議でした。

*ATGC:頭文字で、Aはアデニン、Tはチミン、Gはグアニン、Cはシトシンを意味する。

———では文系理系の選択では迷わずに理系を選んだのですか?

それがなんでも好きだというのがずっと続いていて、理系の教科だけでなく歴史などにも興味があって、高校の文理の選択ではずいぶん迷いました。あのころ、国連の職員にも興味があったんです。子ども時代を過ごしたのは西ドイツで、まだベルリンの壁**がありました。両親の知り合いの研究者がユーゴ紛争***に巻き込まれたりもして、戦争や紛争にはずっと関心を持っていました。国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんに憧れて、国連で働いてみたいと考えていたんです。
結局、高校の先生に勧められて最終的に理系を選びました。大学は、東大の理科Ⅰ類とⅡ類とで出願間際まで迷ったのですが、東大の場合、専門を決めるのは2年後半で、医学部に行かないのであればどちらを選んでもさほど違いはないということで、理科Ⅱ類に。要はモラトリアム(猶予期間)だったんです。
あのころは出会うもの、与えられるものは何でもおもしろくて、広く浅くいろんなことに首をつっこんでいて、父からはよく「頭を使って考えろ」って言われていました。そのときは「私は目の前のおもしろいことを一生懸命やっているのに、なんでそんなことを言うんだろう」といまひとつ意味がわかっていなかったんです。父の言う意味に気づいたのは、研究に進んでからでしたね。

**ベルリンの壁:西ドイツと東ドイツに分裂していた冷戦下、1961年から89年までベルリン市内にあった壁。
***ユーゴ紛争:1991年に始まったユーゴスラビア内戦。