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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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自然教室で出会った、虫に真剣な大人たち

———小さいころはどんなことをして遊んでいましたか?

母がガーデニング好きで、広い庭にたくさん植物を育てていたんです。その花に来る虫や、石ころの下にいる虫を探して遊ぶのが大好きでしたね。植物より、動き回る虫に興味がありました。

———夏休みなどの休暇は何をしていましたか?

小学校 4 年生のときに友達に誘われて和歌山県立自然博物館の自然教室に参加することになったんです。それまで博物館には行ったことがなかったのですが、すごくおもしろくて、毎年参加することになりました。

———どんな内容の自然教室だったのですか?

夏休みに県内の研修施設に何泊かして、学芸員の先生が、昆虫採集のやり方や標本の作り方を教えてくれるというもの。自分で捕ったチョウやガを展翅板*にきれいに固定したり、甲虫類を展足**したりしたんですが、虫の色や形をしっかり見たのは初めてで、ものすごくきれいで感動しました。

*展翅(てんし):標本にするため、昆虫などの翅(はね)を整えてひろげること。その状態で固定する板を展翅板(てんしばん)という。

**展足(てんそく):標本にするため、昆虫などの脚を整えてひろげること。展脚(てんきゃく)ともいう。

———初めてきちんと虫と向き合ったんですね。

そうです。そこで初めて、“虫”だけじゃなくて、“虫に真剣な大人たち”に出会いました。大の大人が目を輝かせて朽ち木を割って虫を捕っている。どんなに小さい虫でも「これはね」と名前や特徴を熱心に教えてくれる。そんな大人がいることにびっくりして、「これは、きっとおもしろいことに違いない」って思ったんです。そこから、改めて虫に興味を持ちました。

———その後は博物館にも行くようになったのですか?

いえ、夏休みだけのことです。その学芸員の先生はオトシブミという甲虫を研究していました。オトシブミは卵を産みつけるために葉っぱをきれいに巻いて“ゆりかご”を作るんですが、先生は県内を歩き回ってゆりかごを調べていたんです。私たちにもそのお手伝いをさせてくれました。当時は研究のお手伝いがうれしくて、毎年、楽しみにしていました。

オトシブミは10mmに満たないくらい小さな甲虫。メスは葉の中心に卵を産み、それを巻いてゆりかご(揺藍)を作る。ゆりかごが地面に落ちている様子が「落とし文」に似ているということから名前が付いた。孵化すると幼虫は内側の葉を食べて成長。成虫になるとゆりかごの外に出て行く。島田先生はゆりかごの巻き方が右巻きか左巻きか、その地域差などを調査したという。

———学校生活はいかがでしたか?

小学校までは水泳を頑張っていたんですけど、スポーツ心臓になって運動系の部活ができなくなりました。中学校もなじめなくてサボってばかりでしたが、学芸員の先生とは仲良かったので博物館へは時々顔を出していました。引き続き研究をお手伝いして、中学2年のときにそれまでのオトシブミのゆりかごの研究を友達と一緒にまとめて、和歌山県科学作品展の奨励賞を受賞しました。

———高校生活の思い出を教えてください。

受験勉強と恋愛です。私立中高一貫の進学校に高校から編入したので、授業についていくのが大変で、必死に勉強しました。それ以外では、本をいろいろ読みましたね。ノーベル賞を取った利根川進先生とジャーナリストの立花隆さんの対談『精神と物質』は何度も読んだし、発生生物学の岡田節人(おかだ・ときんど)先生の『生物学個人授業』もおもしろかった。イラストレーターの南伸坊さんとの対談をまとめた本です。そのころから、大学で生物学をやりたいと漠然と思っていました。

———虫の研究などはしなかったのですか?

虫活は高校3年間は封印です。彼氏に虫好きがバレたら嫌われると思って、ずっと隠していました(笑)。大学に入って1人暮らしを始めたら、標本が部屋にいっぱいあるので速攻でバレましたけど。