中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第3回
マウスを透明化して、
生命現象のシステムを解き明かす

第3章 細胞から個体まで、生き物の仕組みをシステムで考える

洲﨑
僕がいま取り組んでいる「システム生物学」とはどんな学問かということを少し説明します。システムというのは、その部品が組み合わさって何かの機能を発揮するもの、例えば車などはまさにシステムですね。皆さんは車がどう動くかはだいたい知っていると思います。エンジンがあって、ギアがあって、エンジンの中にガソリンが入ってきて、それが爆発してピストンが動き、ギアに力が伝わって、そこでトルクが変わってタイヤが動くみたいな感じですよね。

「生き物を、部品が組み合わさって何かの機能を発揮するシステムと捉えて研究しています」

一同
(うなずく)
洲﨑
では、それを1回忘れてもらいましょう。今、皆さんが初めてこの黒い鉄の塊を見たとします。いったい、この塊がどんな機能を持っているか分からない。そのとき、皆さんは最初何をしますか。おそらくドアを開けてみたりすると思いますが、それだけではこれが何なのか分からない。とにかく大きな鉄の塊で、丸いもの(タイヤ)が4つ付いてて、透明なもの(ガラス)がはまっていて、という感じだと思うんです。そのうち誰かが、動くことに気付くかもしれません。そうすると皆さんはたぶん、この勝手に動く鉄の塊がどうやって動くのか、ということを知りたくなると思うんです。そのとき皆さんはどうやって調べますか。

車は人工的なシステムの良い例

大友
分解する。
洲﨑
はい、それは非常に正攻法だと思います。たぶん最初に分解すると思うんですよ。では分解して分かることは何でしょう。
岸野
エンジンが中心だったみたいな。それは分からないか・・・。
奥山
部品があること。
洲﨑
そうだね。最初は黒い部品が何個あって、なんかギザギザが付いたものが何個あってという部品のリストができます。でも、それだけでは、その物体がどうやって動くかは全然分からない。それを知るためには、その次のステップに行かないといけない。
岸野
似たような部品に分けるとか。
洲﨑
そうですね。分類はすごく大事ですが、リストの延長かな。部品ってバラバラだと機能しない。何かの組み合わせができて、単位になるような機械、例えばエンジンのピストンや、ギアボックス、そういうものを作ることで機能する。
だからおそらく次は、そのリストの中の部品同士がどのように組み合わさるかを調べないといけない。組み合わせが分かると、例えばこれは上下運動を回転運動に変えるような機械らしいといった機能が初めて分かってきます。
そのように部品が分かり、部品の組み合わせが分かってくると、タイヤが回るという出力がどのように起こるかが少しずつ分かってきます。そして最後には、それまでに分かった原理をもとにして、自分が作りたい車、トラックでもスポーツカーでもいいですが、いろいろなバリエーションが作れるようになると思うんですよね。そこまでいって初めて、システムを本当に理解したと言えるようになるかなと思っています。
一同
(うなずく)
洲﨑
ここでは車を例に話したけれど、生物学が対象にしているのはもちろん生き物なので、同じように生き物がどういうふうに動いているのかを調べないといけない。システム生物学は、このように生命をシステムと考えて、部品が何個あるか、その部品同士はどのように組み合わさっているか、組み合わさった部品に対して入力と出力はどのようになるかということを一つ一つ調べていき、最終的に生命はどのような反応をするものだとか、ある環境ではこのように機能するものだ、ということを調べていく学問です。
小林
そのような生き物をシステムとして理解しようという考え方はいつごろからあったのですか。
洲﨑
システム生物学の考え方が登場する少し前に、まず生命を部品に分けようという考え方が出てきました。DNAが発見され、体の中の、そのDNAの中にどうもその情報をコードしている遺伝子っていう部品があるらしいことが次第に分かってきたころです。
研究者たちが遺伝子をどんどん調べ始めた結果、最初は虫食いみたいな感じのリストでしたが、次第にいろんな遺伝子のリストができ始めました。そして、ゲノムプロジェクトが始まったことでDNAの中に何個部品があるかっていうのが2000年ぐらいに初めて分かりました。つまり、車の例でいうと、分解して部品リストができたんです。
そこから、部品としての遺伝子をどうするかというときに出てきた考え方がシステム生物学という学問で、僕の今の上司である上田泰己さんの先生である北野宏明さん(ソニーコンピューターサイエンス研究所代表取締役社長)がつくったんですね。
僕はシステム生物学という考え方を、これは素晴らしい考え方だからいつかどこかで研究したいと当時医学部の4年生ぐらいのときに思って、最終的に上田さんのラボに来たわけです。

「医学部の学生のときにシステム生物学の考え方に出会い、この研究をやりたいと思いました」

大友
具体的にどんなことがシステム生物学で調べられていったのですか。
洲﨑
例えば生き物は、24時間、動いたり、寝たり、ご飯を食べたり、いろいろなことをします。こういった24時間のリズムは脳の視床下部にある視交叉上核という、ネズミでは左右両方で2万個ぐらいの神経細胞が集まってできるようなところが司っています。その中の一つ一つの神経細胞の中に、24時間でぐるぐる動く振動子があって、その振動子が集まってつくられた神経ネットワークとしての振動子が、体の24時間のリズムを決めているわけです。
一つ一つの細胞の中のシステムは、遺伝子やタンパク質が司っていて、調べる方法もあるんです。その成果のひとつが、体内時計の分子ネットワークシステムの解明なんですね。車の例でいうと、車がなぜ動くのかを知る部分です。じゃあ分子ではなくすべての細胞を全部丸ごと調べて、動物の個体の制御をしているような細胞ネットワークからなるシステムを調べようとすると、途端に難しくなるのでそれまでは誰もやってなかった。
僕も2010年ごろから本格的に取り組み始めたのですが、結局僕らがやりたいのは、体の中の細胞を全部見ようということ。全部見た上で、ある細胞たちはこういう機能を果たしている、別の細胞たちはまた別の機能を持つということを分類していくことで、身体の中にどういうシステムがあるかがおそらく分かるだろうと考えているんです。