中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第3回
マウスを透明化して、
生命現象のシステムを解き明かす

第5章 3D画像から神経細胞の活動を細かく見る

洲﨑
透明化の技術を使って、僕たちが最終的にやりたいのは、例えば脳の神経細胞がどういう状況のときに、どういうふうに活動しているかを探ることです。
これは神経細胞の活動の例で、2匹のネズミに対して片方は光を当てて、片方は真っ暗闇の中で飼いっ放しにしたときに、それぞれの脳の神経細胞がどういうふうに活動したかをスナップショットで撮っています。

光刺激の有無で神経細胞の活動が変わる 緑:活動した神経細胞、青:細胞核
(データ提供:理化学研究所)

そうすると光を当てた側は、視覚野という目からの情報が入ると活動するエリアが光という刺激が入ることで三角形に光ってる。その後ネズミが周りをクンクンと調べ出すと、特にひげの性質に関わるような体性感覚野というところが活動し、こうした情報を統合する連合野も活動していることが画像でちゃんと見えるんです。一方、光刺激のない真っ暗闇で飼ってたネズミを見比べてみると全然違うところが活動していることが分かります。さらに、2つの脳の画像同士を重ね合わせて比較することもやってみました。こうしたことが3Dのイメージの中で、一個一個の点、神経細胞のレベルで観察できるのです。

光刺激ありと無しのネズミの脳の写真を重ね合わせると活動する部位の違いが分かる
マゼンタ(ピンク):光刺激下で活動した神経細胞、シアン(青):暗闇下で活動した神経細胞、黄色:細胞核
(データ提供:理化学研究所)

一同
すごい!
洲﨑
もう少し高度な情報科学的な作業をすると、ネズミに薬を与えたときの神経細胞それぞれの反応を時間経過で追った、その膨大な情報を、反応の近い神経細胞同士のクラスターに分けて解析することができるんです。つまり体の中の細胞を丸ごと見て、それぞれの細胞がどういうシステムを作って機能しているのかをどんどん分類し分けていくことができるわけです。こういうことをやりたくて、ネズミの脳とか、ネズミの全身を透明にしています。
大友
脳が働いた足跡というか、形跡みたいなものは、マウスが死んでから透明化して観察するまでどのぐらいの時間保持されるものなのですか。
洲﨑
それは何を見るかで異なります。早いものはだいたい30分ぐらいで反応が見えるようになって、2時間ぐらいで見えなくなる。先ほどの画像だともう少し遅く、数時間ぐらいで反応が見え、半日ぐらいまで保つという感じ。短時間で結果を見たい場合は、タンパク質ではなく、メッセンジャーRNAだと可能な場合があります。ゲノムDNAからメッセンジャーRNAができて、タンパク質がつくられます。そのメッセンジャーRNAは、タンパク質よりももっと早く現れるので、RNAを直接見るような技術を使うと、ほんの5分前の活動を見ることもできます。
大友
それは光に対する刺激に関しては、ということですか。
洲﨑
刺激は何でもいいです。だから例えば普通に飼っているネズミを新しいケージに入れて、30分後にそのネズミの脳を調べる。すると、その30分の間にネズミがどういうことを考えて、何をやったかということが履歴で分かります。
一同
すごい。
洲﨑
また、東大の宮道和成先生たちと共同で神経細胞の回路、構造の解析を行っています。この研究では、ウイルスで標識した赤色の神経細胞に接続している隣り合った神経細胞を緑色でラベリングすることによって、特定の神経細胞につながっている細胞を可視化しています。
組織の上から下までを全部切片として切り出して調べることは、サンプルが複数になるととても大変です。その操作を、僕らは今、3Dで画像を撮って、そこに写る一個一個の点、神経細胞をコンピューターで検出し、どの場所に存在するのか、その座標情報のデータから解析しています。
岸野
透明人間のような、生きた状態で透明にするというのは難しいのですか。
洲﨑
それはぜひやりたいですが、実際はなかなか大変ですよね。学会でもよく聞かれます。生きたままネズミの脳を透明にできないのか。皆さんに何かアイデアがあったら教えてください。

「生きたままの脳を透明にできないのか、アイデアがあったら教えてほしいな」

一同
うーん…。
洲﨑
僕らの研究で生きたまま生き物を透明にすることはハードルが高いのですが、例えば光学迷彩のように、エンジニアリングの技術で透明化を実現する研究は結構行われています。例えば、以前CMでありましたが、周りの風景を取り込んで、そこにマッチするようにモニターを作る。それで車を取り囲むと周りの風景に溶け込んで見えなくなるような、カメレオン的な感じの透明化もありますね。

ネズミの脳の神経細胞の活動が一目でわかるスライドに興味津々(写真内データ提供:理化学研究所)