中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第3回
マウスを透明化して、
生命現象のシステムを解き明かす

第6章 遺伝子の働きから生き物の行動の意味を知る

――
今日参加してくれている高校生たちが現在研究しているような動物の行動を、システム生物学のアプローチで展開することはできますか。その場合は、この先どういう研究が必要になってくるのでしょう。
洲﨑
おそらく動物の行動とその行動を担うシステムを見つけて対応させていくことになると思います。例えば、奥山さんがやりたい音楽を聴かせることでマウスの動きがどのように変化するかというテーマでは、行動の変化がなぜ起こるのかを調べることになります。その場合、行動量で差を見ることは難しいかもしれない。代わりに脳全体の神経細胞の反応――クラシック、J-POP、ノイズのそれぞれを聴いているときの脳を比べると、たぶん全然違う活動パターンとなって差が見えると思います。そういう意味で、細胞の反応に注目した方法での検出感度はものすごく高いです。また、行動変化の要因となる1つの遺伝子だけではなく、全部の遺伝子の働きをまとめて調べることができたら面白い結果が出るのではないでしょうか。
奥山
私は、自分の研究でマウスの筋肉に色をつけることができないかなと思っています。色をつけることで、筋肉の活動量とかが分かったりしますか。

「マウスで研究成果が出たら、人間にも応用したいと思っています」

洲﨑
なるほど、生きている動物でその変化を見たいのですね。高校の設備でやるのだったら、ちょっとかわいそうだけど、ネズミの体に電極を巻いて筋電を測るのがたぶん一番早いし、正確だと思います。
他の方法としては、筋肉が縮むという細胞の活動に使われるカルシウム量を調べることで変化を確かめることができるかもしれません。大学など設備がある場所だと、カルシウムが細胞内で使われるときに筋肉で働く遺伝子を特殊なカメラで見えるようにすることができるかもしれない。ネズミの行動だけを見ていても分からないことを、筋肉の活動で見てみる、あまりやっている研究者はいないと思うけど、でも面白いと思います。うん、ぜひやってみたらどうでしょうか。
奥山
この研究を人間に応用したいんですけど、そういうのは難しいのかな。
洲﨑
可能だと思います。僕が審査員をしたあるコンテストで、高校生がバイオリンを弾いているときの筋肉の使い方を、自分の身体に筋電図計をつけて測定して、バイオリン初心者のお母さんと筋肉の使い方がどう違うかを調べていました。この研究によって理想的な筋肉の動かし方が分かれば、短期間でプロを産み出すというようなことも実現できるかもしれないですよね。
小林
私は、粘菌の研究を続けていきたいと思っています。粘菌は単細胞生物なのですが、時々思ってもみない複雑な行動を取ってみたりと、私の予想をいつも裏切って興味が尽きません。だから粘菌の中でどのような反応が起こっているのかはすごく知りたいです。

「粘菌の魅力は、単細胞生物とは思えない予想外の複雑な動きを見せることです」

洲﨑
粘菌は生物や、生物物理、あと理論を考えるようないろいろな領域の研究者から面白い研究対象だと思われていますね。いわゆる粘菌が作る伝達物質、ATPという物質を出すことで広がり方にパターンが生まれます。チューリング・パターンというのですが聞いたことありますか。
小林
いえ、聞いたことはないです。
洲﨑
アラン・チューリングという、コンピューターの基本原理を作り、さらに第2次世界大戦中にはドイツのエニグマという暗号を解読したことで有名な数学者がいます。彼が、生物がある種のパターンのようなものを作るというシンプルで美しい方程式を書いた。それがいわゆるチューリング理論といわれていて、その理論に従ってできるパターンがチューリング・パターンと呼ばれます。粘菌が作る広がり方のパターンや、魚の縞模様などもチューリング・パターンです。
小林
数式で表されるんですね。いま研究で悩んでいることが、粘菌に色をつけたいのに、いつも分解されちゃって全然色がつかないことです。核を染める試薬など、いろいろと試しているのですがうまくいきません。
洲﨑
粘菌は遺伝子改変とかできないんでしたっけ。
小林
真正粘菌の遺伝子改変はまだされてなくて、できたらすごく面白いだろうと粘菌の研究者の先生たちは話してるんですけど。
洲﨑
遺伝子改変で、クラゲのGFPのような、光って見える蛍光タンパク質を使って見えるようにする方法がありますね。また、「色をつける」といっても、いろんな色づけ方があって、必ずしも目で見える色じゃなくてもいい、なにか検出できる信号であればよいかもしれません。色をつけるって結構一大研究領域です。タンパク質を光らせたり、いろいろな光る化合物を作る研究者も世界中にたくさんいます。がんの患者さんのお腹の中でがん細胞だけが全部光って、その部分を切除して治療する方法を研究している人もいます。

「色のつけ方」にもさまざまあって、多くの研究者が研究に取り組んでいます」