中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第3回
マウスを透明化して、
生命現象のシステムを解き明かす

第4章 透明化!大きな体の中の小さな細胞をそのまま丸ごと観察する技術

洲﨑
それでは、体の中の細胞を全部見るための技術を作りましょうっていうのが、今から説明するCUBICという技術の始まりです。みなさん、体の中がどうなってるかを見るための方法、知ってますか。
奥山
レントゲンとかかな。
洲﨑
そう、病院に行くとレントゲンで骨を見たり、あとMRIとかCTって聞いたことあるかな?そういう技術もありますね。ただこれらは、細胞一個一個までは見えないんです。僕らが作ったのは、全身を透明にしてやって、それを顕微鏡で見てやろうという技術。それがCUBICです。
この技術を使うと、例えばネズミの脳の神経細胞が丸ごと撮れて、ちょっとズームインしていくと、一個一個の神経細胞がちゃんと見えると。こういうのがやっとできてきたんですね。

CUBICの技術を使って透明化したネズミの脳の顕微鏡写真(データ提供:理化学研究所)

例えば、がんの転移モデルのネズミで、がん細胞が移植されてて、そのがん細胞が体にどういうふうに広がっていくかなどは、3次元で見ると、肉眼で見つけることが難しい小さながん細胞の固まりまでちゃんと見えるんです。今までの人がやってたみたいに組織を薄い切片として切り出して観察しようとしても、とてもじゃないけど、そんな小さな固まりは拾えないんですね。CUBICの技術はパワフルで全部見えるので、本当にすみずみまで3次元で全部分かるわけです。
大友
そもそも脳を透明化するって、どのように行うのですか。

「生き物を透明にする具体的な方法を知りたいです」

洲﨑
いい質問ですね。透明ってどういうことでしょう。皆さんの周りで透明なものってどういうものがありますか。
岸野
プラスチックとか。
大友
ガラス。
洲﨑
いいですね。他に水とかはどうでしょう。目の中の水晶体など、いろんなものがあると思います。逆に不透明なものってどんなものですか。それもいっぱいあるかも。光学の話になりますが、透明なときって光がどう通ってるか皆さんご存じですか。
岸野
シューッとまっすぐ。

「光がシューッとまっすぐ通り過ぎると透明といえるかもしれない」

洲﨑
そう。つまり光がまっすぐ入って、まっすぐ抜けるのが透明なんです。逆に不透明っていうのは、中で光がいろいろな方向に散乱してしまうと不透明。だから不透明なものを透明にするには、中の光の散乱を極限まで抑える。もう一つ大事なのは、光はいろんな物質にあたって散乱するだけでなく、吸収されるんですね。光を吸収してしまう物質を抜かないと、せっかく通った光が全部なくなっちゃうので出てこない。それは不透明っていうことになる。つまり、組織の透明化でやってるのは、光がまっすぐ抜けること、散乱や吸収されないようにすること、この二つです。
奥山
いったいどうやると光が散乱せずにまっすぐ進むんですか?
洲﨑
まず光が散乱してしまう原因となる脂肪、特に細胞膜とかを作っているリン脂質、これを抜いてしまいます。次に、水も周りの生体物質と特性が違うので抜いてしまいます。それで残ってるのがタンパク質なんですけど、タンパク質にものすごく近い光学特性を持ったようなもので先ほど抜いた水と置き換えてあげることで、光がまっすぐ進み透明になります。これが、組織を透明にする原理の一つです。
一同
(信じられないといった顔)
洲﨑
もう一つは光の吸収。体の中の場合は血液の色、赤色を作ってるヘムという物質は特定の光の波長をすごく吸収するんです。なので、これも抜いちゃう。脱色といいますが、そうするとよりきれいな透明になります。組織の透明化には、この二つの原理があります。
透明標本の場合は、最初にアルカリで組織を処理して、同じように体の中のいろんな物質を抜いています。特にタンパク質を軟らかくしたりしているのですが、その後にグリセリンで水をどんどん置換をしていくと同じように透明になります。皆さん、透明標本を作ったことありますか。

光の散乱と吸収の原因となる物質を除いてネズミの脳は透明化される(データ提供:理化学研究所)

小林
友達が作っていました。
洲﨑
透明標本の場合は、そんなに透明にする力が強くないので、ほとんど身をむいてしまって、骨と、骨の周りに付いてる少しの筋肉にしてしまうんです。一方僕らが研究で使う場合は、透明標本だと取ってしまうところも全部透明にして観察したいので、少しパワフルな化合物を選んで使っています。
大友
見たいものが生き物を透明にするのを邪魔する物質だったということはないんですか。
洲﨑
それはあります。例えば、脂質そのものを見たいっていう人は、脂質が残ったまま透明にできるような異なる方法を使わないといけない。透明化にはいくつか方法があって、それぞれいいところと苦手なところがあるので、研究者は自分の目的に合った方法を選んで使用するわけです。