公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第3回
マウスを透明化して、
生命現象のシステムを解き明かす

第7章 サイエンスの進歩のきっかけは新たな技術から

大友
洲﨑先生が研究者として生きていこうって思ったのはいつごろだったのですか?

「研究者として生きていこうと思ったのはいつごろですか」

岸野
医学部に入学したのに、医者にならずに研究者になると決めたときに周りの人たちの反応がどんなふうだったのかを知りたいです。
洲﨑
僕はもともと研究者になるつもりで医学部に入学しました。医学部の中では僕のように研究者になろうと考える人は珍しかったけれど、やはり進路は人それぞれだと思います。僕の同級生には起業家になると言って医学部に進学し、実際に起業して社長になった人もいます。周囲の反応としては、当時は基礎研究の重要性を理解してくれない人も多かったですが、今では反対に、研究は大変だけど頑張って、と言ってくれる人たちもいます。
もちろん、医師という職業はとても重要で、責任も大きいですがやりがいのある仕事だと思います。実際僕も、病院で行う臨床研修でたくさんの患者さんに接する中で、医者を仕事にすることを真剣に考えた時期もありました。最終的には、やりたいことを続けてきた結果、現在も研究者として研究できているという感じです。皆さんも研究者になろうと思っていますか。
岸野
少し考えています。この前ニュースで見た、がん細胞を近赤外線で消滅させることができるという研究が面白いと感じました。生物分野の研究を通して医療に貢献したいなと思います。洲﨑先生のいるこのラボでは、医学部以外の出身の研究者はどのくらいいるのですか。

「生物分野の研究を通して医療に貢献したいと思います」

洲﨑
結構います。僕や教授の上田さんは医学部出身で、あとの2名のスタッフは他の学部から。博士研究員の方には物理出身の方もいます。大学院生たちも半分ぐらいは他の学部から来ているので、すごく多様性のあるラボです。
生物学は、もともとは博物学的な学問でしたが、それが今はビッグデータを扱う情報科学的な要素がどんどん入り込んできているし、また物理学や工学など、いろんな分野が融合した複合研究領域になってきています。このラボの上田教授は医学部出身なのですが、数学や物理がすごく得意でコンピューターシミュレーションも自分でこなせる人なんです。他にも、実験で使う顕微鏡を自作する物理学科出身の研究者もいれば、中には本当にネズミを毎日詳しく調べながら研究している人もいます。皆、自分の専門を持ちながらも他の分野を学ぼうとしていて、それは難しさはありますが、楽しいですよ。
皆さんが仕事を選ぶタイミングは、大学に入学するとき、修士や博士に進学するとき、卒業して仕事に就くときとさまざまですが、やっぱりやりたいことをやるのがいいような気がします。やりたいことをやるためには、スキルもいるし、責任も伴うし、楽ではありませんが、そういう環境を自分の中や周囲に作っていけるように進めば、自然にいい具合にいくんじゃないかなというふうに思います。それと、数学とプログラミングはやっておいたほうがいいと思います。どこに行っても役に立つ。

「現在の生物学は様々な分野が融合した複合研究領域になりつつあります」

一同
(ちょっと苦笑い)
洲﨑
最後にちょっとメッセージとしてお伝えしたいのは、シドニー・ブレナー先生という線虫という土の中にいる寄生虫の一種を研究対象として使い始めた研究者の言葉です。アポトーシスって皆さん聞いたことありますか。
岸野
細胞死のことかな。
洲﨑
うん、細胞死ですね。ある状況にさらされたときに、細胞が自分自身で死んでしまうようなプログラムされた現象で、シドニー・ブレナー先生がこの現象を線虫を使って初めて調べました。この先生は、サイエンスが進歩するときは、最初に新しいテクニックが出てきて、その次にそのテクニックを使って新しい発見が出てくる。そして最後に、その発見を基にした新しいアイデアが出てくると言っています。僕も、たぶんこのような順番でサイエンスは進むんだと思います。僕らはいま最初の段階、テクニックができたところなので、次の発見につなげようと一生懸命頑張って研究をしているところです。皆さんも何か新しい発見をしたいと思ったときはこのメッセージを思い出して頑張ってください。皆さんが大学でいろいろなことを勉強して、自分がこれをやりたいというものを見つけられることを願っています。
一同
ありがとうございました。

対談後には、実際に透明化されたマウスを見せてもらったあと、研究者の皆さんの居室、マウスの飼育スペース、分析機器の部屋などを見学。また、研究ポスターを見ながら大学院生からプログラミングの話を聞いたり、顕微鏡を作っている研究者の方のお話を聞かせていただくなど盛りだくさんの研究室見学を行いました。

全脳のデータは14テラバイトもあるんだって!

ラボにあるさまざまな機械にも興味津々

顧問の前田香織先生の感想

今回訪問させていただいた洲﨑先生はとても紳士的で、本校生物部研究班4人それぞれの研究の話を丁寧に聞いていただき、またご自身の最先端の研究をとても分かりやすく説明していただきました。さらに、実際に研究室内を案内していただきながら、多様な分野の方々が集まって研究を行っている場面を見せていただくこともできました。画期的な技術を使って生体を透明化して生命現象を顕微鏡の映像から見ることができる、そんな夢のようなことが現実になりつつあることは驚きでした。生徒達に対して、洲﨑先生からはアドバイスと励ましの言葉を、また実験真っ最中の研究者の方々からもメッセージをいただくことができ、4人にとって貴重な体験となったと思います。本当にありがとうございました。

( 取材・構成 株式会社リバネス 井上 剛史 )

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