公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第5回
生物の機能を活用した、
新しい原理で動く機械の開発

第3章 シビレエイの電気器官を利用した発電機を作る!

田中
今お話ししたマイクロチップを使った細胞の分析技術では、流路を非常に細くしたものを使っていました。ただ、ポンプやバルブなど流体を動かすために必要な装置は小さくできておらず、システム全体としては大きいままなんです。そこで、もう一つのアプローチとして、ミクロのサイズで動く生物のシステムを活用した機械を作る研究を行っています。
吉岡
具体的にどのような研究を行っているんですか?

「先生はどんな生き物のシステムを研究に使っているのですか? 」

田中
修士課程の学生の頃に行ったのは、心臓の細胞を使ったポンプの開発です。その発展形として、ミミズの筋肉を使ったポンプの開発も行っています。
都藤
ミミズを使おうと思ったのはなぜですか?
田中
ミミズってほとんど筋肉でできているような生き物で、変形しながら土の中をもぐっていきますよね。だから、小さいのにすごく強い力を持っている生き物なんですよ。しかも、その筋肉は収縮する力が優れているだけでなく、扱いやすく電気に対する応答速度にも長けています。ミミズ筋肉シートを用いた小型ポンプを試作したところ、既存の小型ポンプに匹敵する機能を持つことが分かりました。

コラム
ミミズの筋肉組織が小型ポンプの材料に!?

A)はミミズポンプを俯瞰した模式図、(B)は(A)のX-Y断面図を表す。
図版提供:理化学研究所

これまで最先端の研究分野では、わずかな量のサンプルや液体を送り出すために使われる小型ポンプが強く求められていました。しかし、従来の方法では、電源やワイヤーを使うために、その小型化には限度がありました。そこで田中先生のチームが着目したのが、なんとミミズの体壁筋という筋肉組織です。皆さんも外でミミズを観察すると分かると思いますが、ミミズはその体を時に細長く、時に太く短くできるなど伸縮性に飛んでいるほか、生物材料として優れている点がいくつもあります。その性質をポンプのプッシュバーを押す仕組みに応用したのです。このように生物が持つ細胞や組織機能を使うことで、電気ではなく、栄養や酸素という化学エネルギーだけで動くポンプを作り出すことが将来的にできるかもしれません。

詳しい内容は理化学研究所のプレスリリースを見てみよう。

太畑
なるほど、すごいですね!他にも生物のシステムを活かした研究をされているんですか?
田中
今まさに力を入れている研究なのですが、シビレエイという生物を使っています。この生物は面白くて、自ら発電します。発電する魚というとデンキウナギなどを聞いたことがあるかと思いますが、シビレエイは他のものと比べて安定して電流を生み出すことができるんです。

シビレエイ
デンキウナギ、デンキナマズと同じく体内に電気器官を持ち、強い電気を発生することのできる強電気魚の1種。全長35cmほどで、一部の種は日本近海にも生息する。田中先生のグループはシビレエイの1種Narke japonicaを使って実験している。

吉岡
そうなんですね!そのシビレエイを使って具体的にどのような実験をしているのですか?
田中
まずは発電器官を取り出して利用できるかを確かめるため、シビレエイの電気器官を3センチメートル角にカットして、直列につなぎました。そこに神経を刺激するアセチルコリン溶液を流し込むと、電圧や電流を計測することができました。ただ、やはり生きたままのシビレエイほどは発電できず、生き物のしくみの精巧さも感じています。

コラム
強発電魚の機能をヒントにした新しい電池の開発

電気器官直列発電ユニットを用いた発電デバイス
(A)は原理図。3 cm角にカットしたシビレエイの電気器官に電極をつなぎデバイス化する。このデバイスを直列につなぐ。2個のデバイスあたり1本のアセチルコリン溶液の入ったシリンジを接続。1個のデバイスに4本の細管からアセチルコリン溶液が注入される。(B)は実際のデバイス写真(16直列型)。
図版提供:理化学研究所

私達が生活する上で電気は欠かせないものとなっています。火力や原子力といったこれまでの発電方法に代わる安全で環境に優しい発電方法の開発が今、求められています。
そこで田中先生のチームが注目したのは、シビレエイです。強電気魚であるシビレエイは体内に電気器官と呼ばれる部位を持ち、安定的に電気を生み出すことができます。田中先生のチームは、シビレエイの電気器官を電極につないだデバイスを開発しました。これは皆さんが普段目にする電池の役割を果たすことができるものです。近い将来、生き物の共通のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)のみで実現できる電池がもっと一般的になるかもしれませんね。

詳しい内容は理化学研究所のプレスリリースを見てみよう。

太畑
なぜシビレエイを使おうと思ったんですか?
田中
電気を出す魚って面白いなと感じたところが大きいです。また、他の強電気魚であるデンキウナギは南米のアマゾン川、デンキナマズはアフリカにしか生息していなくて、日本で手に入れるのは大変なんです。一方で、シビレエイは日本近海でよく捕れます。
吉岡
先生はシビレエイの性質を活かして、どんな装置を作ろうと考えているんですか?
田中
シビレエイに信号を発信する小型装置を取りつけて、深海調査ができないかと考えています。通常は、このような装置を動かすためには、電池を用います。しかし、電池の寿命はどんなに持っても1年ぐらいなんですよ。だけど、シビレエイは自分で発電できるわけですから、生きている間ずっと調査ができるはずです。
一同
なるほど~!

田中先生の研究が60秒で分かる動画を見てみよう

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