中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第9回
ウイルスの一生を視る

第2章 レクチャー3 エボラウイルスとは?

南保
エボラウイルスは、どういうウイルスでしょう(図7)。種類からいうと、モノネガウイルス目フィロウイルス科に属します。ヒトやサルといった霊長類において高い致死率を伴う重篤な出血熱を引き起こしますが、残念ながら、承認された治療薬はありません。こういった要因があるので、野生型のエボラウイルスを取り扱う作業には最高度安全実験施設「バイオ・セーフティー・レベル4(BSL-4)」が必要となります。
もう一つ、特筆すべき点がエボラウイルスの粒子の形です。図7のように長いひも状で、すごく大きい。大きいと言われてもなかなかイメージが湧かないと思うので、右に赤いニコちゃんマークを表示しました。これが一般的なインフルエンザウイルスの大きさです。

図7(図版提供:南保明日香教授)

松竹
うわー、エボラって大きい!
南保
すごく大きなウイルスであることが分かりますね。でも、どうしてこんなに大きいの? これは、ウイルスに聞いてみないと、ちょっと分からないです(笑)。
松竹
似たようなウイルスって他にあるんですか。
南保
同じフィロウイルス科に属するマールブルグウイルス(Marburg virus)。ドイツのマールブルグでアウトブレイクを起こして見つかったウイルスで、エボラウイルスのいとこに当たるようなウイルスですが、同じひも状の形をしています。あと、実はインフルエンザウイルスも単離された初期状態はひも状なんです。それを実験室で飼っていくと、だんだん丸くなっていく。
八幡
えーっ?
南保
長いインフルエンザウイルスもいるんです。ウイルスは遺伝子の違いで○○株、△△株と分類されるのですが、その長いインフルエンザウイルスはユドーン株といいます。ユドーンを英語で書くと、「うどん」なんですよ(Udorn strain influenza)。
一同
(笑)
南保
最初に聞いたとき、長いからUdornなのか(笑)、日本人が単離したのかと思って。
八幡
その長い尻尾みたいなのがどんどんなくなっていくんですか。それとも、丸まっていくんですか。
南保
収縮していくというか、実験で感染を繰り返していくうちに丸いのができるようになっていくそうです。不思議ですよね。多分、粒子型を作るようなタンパク質に変異して、それで丸くなっていくんだと思います。エボラウイルスの場合、丸い粒子についての報告はないので、なかなか変異が起こりにくいのか、やはり大きいことが重要なのかどちらかだと思います。
エボラウイルスは1967年に初めて見つかり、人を恐怖に陥れるようになったのですが、それまでは知られていなかった。このように未知のウイルスが突然出現し、ヒトに感染して急速に拡大することを「新興感染症」、病原体であるウイルスを「新興ウイルス」といいます(図8)。エボラウイルスの他に、SARSって覚えているかな、SARSやHIVもそうですね。

図8(図版提供:南保明日香教授)

一同
(うなずく)
南保
こう言うと、ウイルスがいきなり出てきて私たちを突然攻撃したように思えるでしょ? でも、ウイルスに非があるわけではありません。エボラは、もともと洞穴の中にいるコウモリに感染していたウイルスでした。だけど、人口が急増し経済活動が活発化した結果、熱帯雨林を切り開き、洞穴まで道を作ってしまった。そこで接点ができ、たまたまそのウイルスが人間に感染し、そして、たまたま高い病原性を示してしまったということが考えられます。
人間のエゴによってこういう新興感染症が起きてしまったとも言えるわけで、人はもっと謙虚にならないといけないのではないかなと私はいつも思っています。
一同
(うなずく)
南保
もう一つ、エボラウイルスの特性で皆さんに知ってもらいたいキーワードがあります。それが「人獣共通感染症」で、人間だけではなく両方に感染または寄生する病原体による感染症を指します(図9、10)。人獣共通感染症の多くのウイルスは人に致死性の病気を引き起こすのですが、自然宿主とはうまく共生していて、宿主を殺すことはありません。エボラウイルスの場合、自然宿主はコウモリである可能性が高いといわれていました。最初にエボラに感染した人が洞窟に入っていた、鉱山で働いていたといった経緯があったので、コウモリではないかといわれていたんですね。実際、何年か前にアフリカにいるルーセットオオコウモリから、先ほど出てきたエボラウイルスのいとこ・マールブルグウイルス由来の遺伝子が検出されました。

図9

図10(図版提供:南保明日香教授)

 
その時、エボラの遺伝子は検出されなかったのですが、エボラウイルスに対する抗体が発見されたので、おそらく同じようなアフリカにいるコウモリにエボラウイルスが感染・維持されていると考えられています。
ただ、コウモリからヒトに直接感染する経路はまれであると考えられていて、コウモリからまず霊長類、サルに感染した後、その霊長類とヒトが接触することで感染するのがメインルートではないかといわれています。なぜかというと、図10に「ブッシュミート」とありますが、アフリカでは野生動物を食べる、サルなどの薫製肉を食べる風習があるんですね。つまり、エボラウイルスに感染して死んだ霊長類を触るとか、ブッシュミートを食べることを介してヒトが感染する。だから、今はブッシュミートを食べてはいけないといった教育活動も行われています。
八幡
抗体というのは、エボラウイルスを防ぐ抗体ですか。
南保
コウモリの場合、理論的には免疫応答の結果できた抗体だと思います。ただ、それ自身がコウモリでも症状を抑えているかどうかは分からない。
八幡
コウモリだったら症状が出ない?
南保
出ないですね。
八幡
ああ、そうなんですね。
南保
ただ、それが抗体だけの理由なのか、ウイルス自体の増殖が人間ほど爆発的ではないかのどちらか。コウモリを実験的に飼いながら、そういう研究をしている研究グループもいるので、そのうち今言った質問の答えが分かってくるのではないかと思います。
コウモリの話が出ましたけど、事前にいただいた質問に「エボラウイルスを持ったコウモリの活動範囲が九州をかすめていたのですが、今後、地球温暖化の影響で日本で流行することも考えられますか」とありましたね。
エボラウイルスは、今のところ少なくとも5株が単離されていて、それぞれヒトに対する致死率が違います。今、アフリカで流行しているのがザイール(Zaïre)で、最大致死率90%といわれています。で、アジアにいるウイルス株はレストン(Reston)なんです。レストンはサルを殺すけれども、なぜかヒトは殺さない。九州をかすめているコウモリがエボラを持っていたとしても、地理的に考えると、レストンだと思います。

図11(図版提供:南保明日香教授)

八幡
それなら、ちょっとは安心かも。
南保
これが変異を起こしてヒトを殺してしまったりしない限り、多分、大丈夫だと思います。ただ、私も沖縄にいるコウモリなどにレストンを持ってるのがいるのではないかと考えることがありますけどね。
八幡
ウイルス株によって致死率が違うのはどうしてですか。
南保
遺伝子が違うんですね。遺伝子の情報が違っていて、多分、それをコードするタンパク質の構造がちょっと変わっているので、そういったところが病原性の違いに出てくることが考えられます。ただし、具体的に病原性の違いを決定づけるメカニズムは分かっていません。今のところ、アジアのエボラは私たちには優しいのかな(笑)。