公益財団法人テルモ生命科学振興財団

財団サイトへもどる

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

サイト内検索

中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第9回
ウイルスの一生を視る

第3章 BSL-4(バイオ・セーフティ・レベル4)施設について

南保
今後の展望としては、この研究を発展させるためにいろいろなフィールドの研究者と共同研究し、ウイルス研究におけるブレイクスルーを引き起こすこと。治療法を開発し、最終的にはエボラウイルスの制圧に結び付けたいと考えています。その拠点となるのが、現在、建設中で、2021年7月に完成予定のBSL-4施設です。

BSL-4施設外観イメージ(出典:長崎大学感染症共同研究拠点HP)

松竹
ここに来る時に前を通りました。
南保
そうですか。現在、日本で稼働しているBSL-4施設は1カ所だけで、国立感染症研究所(感染研)の村山庁舎(東京都武蔵村山市)にあります。オリンピックが開催されることもあり、病原性の高いウイルスに感染した人が海外から国内に入ってくる可能性があるのですが、今のところ、患者さんが入ってきた場合は感染研が対応することになっています。
この感染研と長崎大学のBSL-4施設には違いがあります。感染研は原則として診断が目的で、感染の疑いがある患者さんの感染の有無を判定するのが大きな目的です。一方、長崎大学の場合は、それに加え、研究と教育の2つを大きな目的としています。
第1目的の研究ですが、エボラウイルスの研究でいうと、野生型エボラウイルスはBSL-4でしか扱えません。今は代替法しか使えないので、そこから分かる知見には制限があります。しかし、BSL-4ができれば、野生型ウイルスが扱えるので、基礎研究や治療法の開発に結び付けるような研究ができるようになります。
さらに、国際的な研究機関とグローバルな連携をつくったり、研究者の交流を促すことで、国際的な研究成果を長崎から世界に向けて発信することができます。
もう一つは、教育ですね。大学の機関なので、感染症を引き起こす病原体を取り扱うことができる研究者や専門家を教育することを目的としています。今のところ、それを取り扱うことができる人の教育訓練は海外のBSL-4に頼っています。しかし、新しく作られるBSL-4では、グローバルに活躍できる感染症研究者や専門家を育成することで、国際社会に貢献することが期待されます。
私の使命は、研究はもちろん、BSL-4で働く研究者やエンジニアを教育訓練して、これから活躍する人材を育成していくこと。それが、私の大事な仕事になります。
八幡
BSL-4で研究するには、大学院を卒業するとか、何か資格のようなものが必要なんですか。
南保
資格というか、国際的な評価基準があるので、それをクリアし、教育訓練を受講した人のみができるようにしていきたいと考えています。働いてみたいですか。
八幡
うーん。
南保
私はEB(Epstein-Barr)ウイルスというがんウイルスからスタートして、その後、エボラウイルスの研究に入ったんですね。だから最初は、ウイルス研究者でありながら、BSL-4病原体は怖いなと思っていました。宇宙服のような防護服を着用している研究者を見て、なんて勇気があるんだろうと思っていたんです。だけど、実際にエボラウイルスの研究を始めてみると、特に国際学会などに行くと、周りはBSL-4研究者だらけ。だから、だんだんそれが普通だと感じるようになって、私もいつかはBSL-4で働きたいとマインドも変わってきました。
一同
(うなずく)
南保
それと、BSL-4施設は非常に高度な安全管理がなされているので、中で働いている人の作業は安全に管理されます。そういうことが分かったこともあり、いずれは働きたいなと思っていたので、今回このような機会が与えられ、本当に楽しみなんです。今は、あの実験用スーツ(陽圧防護服)を着て働くのをすごく楽しみにしています。
編集
BSL-4になると、もっと画期的な研究ができそうですか?
南保
それはあると思いますね。代替法だと、どうしても本来のウイルスの生活環、一生を反映しないということがありますから。
それからもう一つ、コンソーシアムと呼ばれる国内の9大学間での学術的な連携を通じて、共同研究なども推進することが期待されます。日本の感染症研究の発展にもつながるものと期待しています。

この記事をみんなにシェアしよう!