中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第9回
ウイルスの一生を視る

第6章 レクチャー5 研究成果を社会に還元する

南保
研究は研究成果を出すことに加え、その成果をどう社会に貢献していくかがとても重要です。私たちは、研究成果をまだ実用化されていないエボラウイルスの治療薬に結び付けたいと考えています。
一同
(うなずく)
南保
実用化されていないのですが、一定の効果のあるエボラウイルス治療薬が、今のアウトブレイクに使われています。ワクチンとして、あるいは症状のある患者さんへの治療薬として投与されたりしているんですね。例えば、細胞に感染するところをブロックする薬としては、ジーマップ(ZMapp)という中和抗体のカクテルがあります。また、アビガンという薬は日本で開発されたものですが、これはウイルスのゲノムが増えるところをブロックする「核酸アナログ製剤」と呼ばれる薬です(図18)。

図18(図版提供:南保明日香教授)

 
さて、研究成果をどう創薬研究に結び付けていくかですが、私が開発した「顕微鏡下でウイルスの侵入を視る」という方法を用いて開発を進めています(図19)。ウイルスの侵入はいくつかのステップに分けることができ、それぞれのステップを個別に顕微鏡で視ることができます。さらに、画像解析ソフトを使って、それぞれの効率を評価することが可能です。例えば、細胞にウイルスが吸着するところ、その後マクロピノサイトーシスを誘導するところ、小胞に取り込まれるところ、最後に膜融合が起こるところ。それぞれを別個に捉え、候補化合物が侵入のどこを、どのぐらいの効率でブロックするのかを画像解析ソフトを使って評価することができるのです。

図19(図版提供:南保明日香教授)

 
これを利用して、エボラウイルスの侵入に特化した薬を創りたいと、他の研究者やベンチャー企業と共同研究をしているところです。大学発の薬を商業ベースに乗せるのは結構難しいのですが、今後、変異ウイルスが出現する可能性を考えると、いろいろなメカニズムでエボラウイルスをブロックするお薬を創ることは必須であり、最終的にはエボラウイルスの制圧に貢献できればいいなと思って、みんなで一生懸命頑張っています。
八幡
薬が開発された場合、感染している状態で薬を飲んで体の中でウイルスを殺すことができるんですか。
南保
予防薬としても使用できるものを考えています。
八幡
予防注射みたいな感じですか。
南保
予防注射、ワクチンがまさしくそれですね。だから、感染をまず防御する。そして、もし感染してしまったら、感染性をできるだけ抑える。侵入をブロックするお薬ができれば、あらかじめ飲んでおいて侵入をまずブロックすることが予防になるだろうし、感染した後でも効果はあると予想できます。
ウイルスの感染は、最初に感染した細胞でウイルスが増え、その細胞から放出された子孫ウイルスが次の細胞に感染していくというように、第1波、第2波、第3波と、だんだん増幅していくと予想できます。つまり、速効性のある薬であれば、感染したと分かった後に飲んでも、第2波、第3波のところでブロックすることができ、効果を示すと考えられます。だから、予防と治療の両方を考えているということですね。
八幡
最近、エボラウイルスの新薬が2種類開発されて、どちらかが9割生存可能なレベルという話を新聞で読んだのですが。
南保
そうですね、どちらも侵入をブロックする中和抗体だったと思います。
八幡
先生は、この薬に関係されているんですか。
南保
残念ながら、関係していません。だけど、高田礼人(たかだ・あやと)先生との共同研究で、先ほどエボラウイルスには何種類かの株があると言いましたが、すべての株を抑えることのできる抗体を開発しました。今後、これを改良して人に投与できるような状態にして、先ほどのジーマップのようにいくつかの抗体と組み合わせるようになれば、お薬として使えることにはなると思います。
エボラウイルスは変異を起こしますし、変異を起こしたとき、さまざまな作用機序で感染をブロックする薬が今後必要になってくると思うので、そのうちの1つとして用いられるようになればいいなと思いますね。でも、新薬の記事をよく見つけましたね。
八幡
1週間ぐらい前、たまたま新聞で見ました。あと、エボラウイルス病の対処法ですが、具体的にどんなふうにしているのかイメージが湧かないので教えていただけますか。
南保
対処法というのは、対処療法のこと?
八幡
はい。
南保
実際に感染してしまった場合、まずは先ほどのジーマップなどのお薬を投与することになるでしょう。それに加えて、対処療法としては輸液で治療するとか、出血や発熱を抑えるとか、そういったウイルスに特化したお薬ではない方法で治療することになると思います。
以前は、生存者の体の中に中和抗体があるはずなので、その血清を打っていたこともありましたが、今はもう薬がある程度開発されているので、現地ではそれを投与することになると思います。
松竹
体にウイルスが入っても発症しないということは、いったん入ってもウイルスが大きくなる前に破壊されるということですか。
南保
いろいろな原因が考えられて、初期症状は出ているけれども死ななかった人の体には、中和抗体ができているみたいなんですね。だから、免疫力が強くてウイルスの増殖を抑えることができた可能性があるのと、あとは何らかの原因でウイルスが増えることができなかった。それは遺伝的なものなのかもしれないし、たまたまそのウイルスが増えることができなかったのかもしれない。
松竹
増えなかった場合というのは?
南保
増殖の初期段階で抑えられていれば、ウイルスが細胞から放出されない状態で、免疫系が感染細胞を排除すると思いますね。
松竹
免疫力というのは、エボラウイルスだけではなくて、インフルエンザなども全部含めた免疫力ですか。
南保
エボラウイルスに特異的な免疫力ということだと考えられます。先ほどの中和抗体の話とも関連しますが、それはもう獲得免疫というか、遺伝的な背景に依存すると考えていいと思います。一方、感染症への防御反応には自然免疫も関わるので、それが強い人は他の感染症などに対しても抵抗力がある可能性があるかもしれません。
目的は創薬に結び付けることなんだ

八幡 紗矢(やはた・さや)(高校2年生)