公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第9回
ウイルスの一生を視る

第4章 若い皆さんへのメッセージ

南保
ここからは皆さんへのメッセージです。私が小さい時に持っていた研究者のイメージは、自分の好きなことを突き詰め、黙々と自分と向き合うようなイメージでした。ところが、医学・生物系の研究は非常にコンペティティブなんです。新しい成果を誰が、どれだけ早く見つけるかを競う世界。大変な部分もあるし、やはり失敗することが多く、よく言われるように「99%失敗するのは当たり前」の世界なんです。でも、どんなに失敗しても諦めないことが大事で、ものすごく忍耐力を要する仕事です。
ただ、先ほど見ていただいた顕微鏡のムービーのように、可視化というアプローチをしていると、「あ、思っていたとおりのことが目の前で起こっている」という、すごく衝撃的な場面に出くわすことがある。まだ2回ぐらいしか経験していないですけどね(笑)。それは、「この現象を視ているのは世界で私だけ。誰もこんなことを知らなくて、私がこれを初めて視ているんだ」という瞬間。そういう体験をするともうやめられないというか、99%は苦しいけれども、1%の素晴らしい場面に立ち会えるから、研究を続けていられるんだろうなと思います。
研究はクリエーティブで、アーティストに通じるような仕事だと思うこともあるし、自分の研究の国際的な位置付けを実感できると、やはりすごくグローバルな仕事だなと思ったりもします。国際学会で海外の研究者に「あなたの論文を読んだよ」と言われると、「うおー」みたいな(笑)。もちろんサイエンスだけではなく、文化的な違いとか、他の国の人と交流することで新たに見えてくる面白い側面もある。研究していなければ、そういう体験はできなかったと思うし、そんなときはやはり研究者になってよかったなと思いますね。
若い皆さんには、いろいろなことを体験してほしいと思います。もちろん勉強も重要ですが、いろいろな本を読んだり音楽を聞いたり……、そういう教養が人間性を高めることにつながります。留学して分かったのですが、海外の研究者は研究一辺倒というより、いろいろな引き出しを持っている人が多い。芸術に造詣が深かったり、文化的な深みがあったり、そういった引き出しをたくさん持っていると会話もすごく弾むんですね。
あとは、考えることを楽しむこと。多分、ここにいらっしゃる皆さんは、きちんと自分の頭で考えて物事を決めることができる人だと思うんですけど、自分自身を振り返ると、高校時代は受験のための記憶勉強ばかりになっていました。子どもの頃は独創的なことを考えられたはずなのに、覚えることに夢中になり、自分で考える能力が失われてしまっていたと思うんです。だけど、大学に入って学生実習でテーマを与えられて実験したり、研究所に所属して研究プロジェクトを進めるうちに、考える楽しみがまた戻ってきたんですね。だから、皆さんには考える楽しみを失わずに学生生活を送ってもらいたいと思います。
一同
(うなずく)
南保
それから、議論することですね。自分の考えをうまくまとめて話すのもそうだし、相手の考えを受け入れて、議論を深めるのを楽しむということを、ぜひ心掛けてほしいなと思います。
最後に、大変なんだけれども、クリエーティブでエキサイティングな研究の世界に皆さんが来てくれればうれしい。感染症の世界に来ていただいて、BSL-4で一緒に働けることになったら、本当にいいなと思います。
八幡
先生、女性の研究者ってやっぱり大変ですか?
南保
昔、知り合いの研究者に「女性は男性の2倍、頑張らなきゃ駄目だ」と言われたこともありました。当時はそれが当たり前だったし、私自身、男とか女とかあまり意識せずに仕事をやってきたと思います。そうそう、博士課程にいた時、同級生が15人いましたが、女性は私1人だったんですよ。
八幡
へえー!
南保
「南保は女じゃないから」とか言われて、私も「そうよね」みたいな(笑)。でも、今、考えてみると、私の周りに活躍している女性がいらっしゃったのも大きかったかな。例えば、私が薬学部にいた時、当時はすごく珍しかったと思うんですけど、女性教授が3名いらっしゃいました。
ロールモデルの存在はすごく重要で、教える立場になった今、私もそういう存在でありたいと思います。女性研究者を支援するために、私の研究のアプローチと同じように女性研究者の研究活動を可視化してアピールしていきたいですね。だから、男の子はもちろん(笑)、女の子もぜひ頑張ってほしいと思います。
編集
先生は、そもそも、なぜエボラウイルスを研究し始めたのですか?
南保
偶然です。
松竹
偶然?
南保
ええ。最初はEBウイルスをやっていたのですが、インフルエンザウイルスの粒子形成に関する研究をしたくて、河岡義裕先生(現東京大学医科学研究所・免疫部門ウイルス感染分野教授)の研究室に移りました。そこで先生から「やってもいいけど、インフルエンザウイルスはすごく競争的だから、エボラも並行してやったほうがいい。エボラは研究者が少ないし、成果も出しやすいよ」という助言をいただいたんですね。河岡先生は「エボラはウイルスが細胞に入っていくところがあまり分かっていないから、そこはどう?」とおっしゃいました。私はちょうど、その前にいた研究室で顕微鏡を使う実験を立ち上げたところだったので、「エボラウイルスが入っていくところを視る」というアプローチは面白いのではと考え、研究をスタートしました。だから、偶然なんです。
松竹
そうやって研究テーマが決まることもあるんですね。
南保
今まで研究を続けているのは必然的な理由からですが、研究テーマとの出合いは偶然であることも多いので、アンテナを広げるのは重要かもしれませんね。先ほどもいろいろなことに興味を持ってほしいと話しましたが、そこからアイデアが浮かんだり、他の人と話すことでやりたいことが見つかる可能性もあると思います。

レクチャーを終えての立ち話では、SSHでの課題研究などについて南保先生がアドバイス

南保先生が持っているエボラウイルス(茶色)のぬいぐるみ。アメリカではウイルスや細菌、赤血球などのぬいぐるみが売られているという
※ジャイアントマイクロブス(GIANT Microbe)

レクチャーを終えて

広い研究室内の片隅で行われたレクチャーの後は、顕微鏡で実際のエボラウイルスを視ることに。しかし、移動した別室には、私たちがよく知っている顕微鏡らしきものがありません。「あれが顕微鏡」と南保先生が指差された先にあったのは、モニターとボックス型の機器。実はそれが「共焦点レーザー顕微鏡」と呼ばれる顕微鏡だったのです。

「レーザーを当てて蛍光タンパク質や蛍光を発する物質を視ることができる特殊な機械です。オートフォーカス機能もあるので、人間がのぞき込んで調整する必要がありません。視たいものを、このボックスのような機器に入れるだけでOK」と南保先生が説明。

その後は、レクチャーで聞いたことを思い出しながら、20分間、生きた細胞の中で小胞が動いていく様子などを観察しました。

みんなの感想

今回の訪問は南保先生からいろいろなお話を聞かせていただき、非常に充実した時間でした。研究者にはクールなイメージがあったのですが、南保先生はとても明るく、どんな質問にも丁寧にお答えくださり、とても楽しかったです。
講義ではウイルスやエボラの研究について分かりやすく説明していただき、よりウイルスへの興味が湧き、研究者という仕事に魅力を感じました。エボラウイルスを人工的に再現し、細胞にも色を付けて中へ入っていくのを確認したというお話が印象深く、顕微鏡で実物も見せていただき、とても刺激的な時間でした。BSL-4についてのお話では、南保先生のわくわくした感じを受けて、研究者にとってそこは最高のウイルス研究ができる場所なんだと、自分の中で新しい発見がありました。理科好きの私にとって今回の訪問はとても貴重な体験で、これからの課題研究も南保先生のように楽しみながら実験を進めていきたいと思いました。
また、今回このような機会をいただき、とても感謝しています。生物の世界はとても面白く、将来、私もその世界で活躍できるように今後も頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。
八幡 紗矢さん

お忙しい中とても貴重な体験をさせていただき、ありがとうございます。そして、気さくに笑顔で話し掛けてくださり、本当にありがとうございました。南保先生の研究者としての強さやエボラウイルス研究への熱意を強く感じました。私も、将来は南保先生のように好きなことに熱中できて、困っている人の役に立てるような職業に就きたいと感じました。進路についての相談などにも乗っていただき、本当にありがとうございました。
松竹 絢音さん

私たちのためにいろいろ話していただき、ありがとうございました。最初は緊張していましたが、南保先生の分かりやすくて面白く、ためになるお話やウイルスのぬいぐるみの話など、さまざまな場面で場の雰囲気を明るく盛り上げていただいたおかげで緊張も解け、楽しく学ぶことができました。先生のお話を聞き、ウイルス研究に興味が湧いて、薬学の研究者になりたいという気持ちがより強まりました。今回の訪問で、さまざまなことを学ばせていただき、ありがとうございました。
宮上 陽向さん

エボラウイルスの感染機構を生徒とディスカッションしながら分かりやすく説明していただきました。世界で初めて感染機構を解明された南保先生に、研究者として、また女性としての魅力を生徒たちは感じたことと思います。生徒たちが挑戦する研究課題についてもエールと「いつでも相談に来ていいよ」との温かいお言葉をいただき、感謝に堪えない訪問になりました。今後ともどうかよろしくお願い申し上げます。この企画の答えは生徒たちの未来にあると思います。このような機会をつくっていただいたテルモ生命科学振興財団さまにも感謝いたします。
教諭:土橋 敬一先生

(参考)八幡紗矢さんが作成したポスター「簡易組織培養法を開発し絶滅危惧種ナガサキギボウシを救え」
2018年度のSSH全国大会で生物部門第2位の奨励賞、第58回植物生理学会全国
高校生研究発表では第1位の最優秀賞を受賞
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