公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第11回
永遠に命をつなぐ生殖細胞の不思議を探る

第3章 研究者への道

私の歩んだ道

それでは、後半のレクチャーに移ります。「研究者への道」ということで少しお話をします。
私は1998年、大阪大学で博士号を取りました。ドクターを取った後、アメリカの非常に有名で歴史あるカーネギー研究所で博士研究員をしました。その後、幸運なことにシンガポールでプリンシパルインベスティゲーター(Principal Investigator:ラボ主宰者)になることができました。研究者の話でよくPIと出てきますが、日本だとおおむね教授クラス。阪大でドクターを取ったあと、アメリカとシンガポールで研究し、期せずしてここ阪大に来たということですね。

研究分野は多彩

皆さんは、化学を志している人もいれば、動物が好きな人、生物が好きな人と、いろいろですね。生命科学を研究したい場合、学部だけでも工学、理学、医学、薬学……と、たくさんあります。薬学だったら創薬の研究や薬の効き方を調べる研究。医学部にいても基礎研究をする方はたくさんいます。iPS細胞でノーベル賞を取った山中伸弥先生は医師ですが、途中で基礎研究に進まれました。工学にも生物工学があり、ナノパーティクルに薬効成分をくるんで細胞にデリバリーする研究などはその一例です。物理でも細胞の中や組織でどのような力が働くかを研究する生物物理があります。もちろん、農学でも水産でも生物はできます。だからどの学部にするかをあまり悩む必要はないといえるかもしれません。

研究者になるための進路選択

さて、どうすれば研究者になれるのか。私も高校時代は全然わかりませんでした。何となくドクターを取らなければいけないかなとは思っていましたが、きちんと知っていたわけではありません。
正直言って、道のりは長いです。皆さんはまだ高校生ですから、大学4年、その後、5年。さらに、ドクターを取ったら、すぐに研究者になれるかというと、そうでもない。たいていの人は博士研究員をします。これがPIになるための道筋です。

*博士研究員(ポスドク):博士号を修得後にラボで働く研究者。研究者として独り立ちするためのトレーニング期間となるポジション
**テクニシャン:研究者が立てた実験計画をもとに実験を行い、実験結果を研究者に提出する技術補佐員

ただ、研究者となるために、博士号が必須というわけではありません。例えば、私のところで最近修士を取った2名の女子学生さんは、二人とも「科捜研の女」になりました。科学捜査研究所ではPCRなどをするので、修士は必要です。また、都道府県の水産研究所や水質試験所など、公の研究所で検査が主となる場合は、博士号を取らなくてよいところもあります。
しかし、自分の興味に従って何かを解き明かしたいと思えば、やはり博士号を取って、自分で問いを見つけ、その疑問に答えるための実験をデザインし、独立して研究をするところまでいかないといけない。博士号を取ったあと、博士研究員として自分の研究をドライブしていくプロセスで、それを学ぶことが求められるのです。

もう一つ、論文を書くこと。結局、研究者の業績は論文です。私はアメリカ、シンガポール、日本とうろちょろしていますが、研究者の評価基準は非常にシンプルで、論文だけなのです。論文という業績があれば、世界中どこに行っても職は見つかります。もちろん、言葉の問題などはありますが、それを克服できるとすれば、論文の質と量だけで生きていけるので、研究者はどの職業よりもグローバル化した職業といっても過言ではありません。

研究者には多彩な能力が必要

よく「研究者には何が必要か」と聞かれるのですが、いろいろな能力が必要です。皆さんは「頭が良くないと……」と思うかもしれませんが、そうでもなくて、特に実験系は体力です。実験し続けられる体力と、それを完成に導く意志の力。自分の発見した現象について、「この分子メカニズムを報告したい」、「どんなことをしても、実験データを出すぞ」という強い意志の力が必要です。
データは淡々とやれば出るものではありません。生物の場合、諸条件をきちんとコントロールしないと再現性がなかったりするので、実験を遂行し、結果を出すためにはすごくエネルギーがいります。そういうことは、とてもじゃないけど、好きでないとできない。はっきり言って、変人じゃないとできません。世の中の99%の人が「おまえは間違っている。こんなことは価値もないし面白くない」と言っても、自分だけは「このデータには価値がある」と信じないと、出るデータも出ない。自分の見た現象を、あるいは自分を信じ切れる力です。科学的に聞こえないでしょうが、「自分が見ている現象が正しい。これを世の中に伝えたい」と思う強い意志の力がないと、研究者にはなれません。サイエンスとはそういうものだと私は思います。

しかも、見つけるだけではなく、プレゼンテーションする力もいるんですね。一昔前は「コミュニケーションが苦手なら、研究者にでもなれ」と言われたかもしれませんが、それは絶対にうそで、プレゼン能力やコミュニケーション能力がないと、テクニシャンにはなれてもPIにはなれません。

あとはラボを運営していく力。皆さんがご覧になった通り、私のラボには院生やテクニシャンなどいろいろな人がいます。その人たちをチームとしてまとめ上げ、彼らをお互いにハッピーにしないとデータが出ない。それは研究だけではなく、どこの会社に行っても同じで、そういうマネジメントできる能力がないと、PIにはなれません。
そして、論文を書くこと。もちろん、英語で論文を書き、英語でプレゼンします。すごく多彩な能力が必要で、これから高校や大学で学問を修め、いろいろな人と話したり、海外で発表したりする中で、少しずつスキルアップしていかなければなりません。
大事なことは、自分の人生の中で科学とどう付き合っていくかだと思うんですね。研究者を目指すなら、どういうスタイルで研究をやっていくかを考えて大学時代を過ごし、大学院を選択してほしいと思います。

自身の経験を踏まえ、研究者になるためのキャリアパスや求められる能力について説明する甲斐先生

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