中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」
第21回
植物の再生メカニズムを解明する
〜切られたところから芽や根が出るのはなぜ?
第3章 質疑応答
3-1 研究について
モデル生物シロイヌナズナ
- 深町
- 今回、モヤシを見せていただいたのですが、今までにどんな作物で実験してきたのですか。
- 池内
- 少し誤解を招いたかもしれません。「胚軸はモヤシの食べるところと同じ」と言ったのですが、今日お見せした植物はシロイヌナズナです。正確には「黄化芽生え(おうかめばえ)」という現象ですが、植物は暗いところで育てると白くてヒョロヒョロに伸びます。モヤシと同じようにシロイヌナズナを暗いところで育て、白く伸びたのを切って培養したものをお見せしました。
シロイヌナズナはアブラナ科の植物で、キャベツやブロッコリーと同じ科に属しています。シロイヌナズナ自体は作物ではなく雑草。研究に使いやすい素材なので多くの研究者が使っています。研究しやすい材料を使い、分かったことが他の植物にも当てはまるので、モデル生物といいます。ショウジョウバエも同じですね。その種自体を知りたいわけではなく、研究しやすい材料を使って研究が進み、いろいろな遺伝子のことが分かると、植物一般に共通するような仕組みが解明されることが期待できます。

シロイヌナズナ
接ぎ木の成立条件
- 石原
- 再生能力についてですが、同じ種同士だから再生するのですか。例えばスギを接ぎ木する場合、同じスギの方が再生能力がある?
- 池内
- それはすごく面白くて、接ぎ木が成立するのは、基本的にはやはり近い種。例えば、カボチャとキュウリは同種ではないけれど、ウリ科の近縁種。進化的に比較的近いか、似ている種同士であれば接ぎ木が成立することが多い。しかし、アブラナ科とウリ科であれば普通はつながらない。つまり、植物にはそれを見分ける仕組みがあるのだろうと考えられています。
最近面白い研究があり、タバコの仲間は特殊な能力を持っていて、どのような植物とでも接ぎ木ができるという発見をした研究者がいます。そういったところを糸口に、つながるかつながらないか、植物がどうやって相手を見分けているのか、その仕組みも分かってくるだろうと思います。

タバコ
似ている接ぎ木と寄生植物
- 石原
- 似ていない種でも遺伝子組み換えで近くしたら、つながる可能性はあるのですか。
- 池内
- それは、難しい質問ですね。見分けている仕組み、認識に関わるような遺伝子が分かれば、その遺伝子を改変することで、おっしゃったような実験ができるようになるかもしれない。ただ、現時点ではそこまでの手掛かりがないので、1つの遺伝子だけを改変してつながるようにすることは実現していません。
それから、接ぎ木と寄生植物は結構似た現象が起こっていて、奈良先端大でも吉田聡子(よしださとこ)先生たちが寄生植物の研究をされています。寄生植物は宿主の植物と維管束をつなげて栄養を奪い取るのですが、他の種と維管束をつなげてくっついてしまうところが結構接ぎ木と似ている。寄生植物はどんな相手とでも接ぎ木ができる能力を持っているので、そういった研究が進むと、植物がどうやって見分けているのか分かってくると思います。面白い現象がたくさんあるのですが、まだ解明されていないことばかりです。

寄生植物(ヤドリギ)
再生は自然界でも起こる?
- 河上
- この再生は、どういうところで起こるのですか。
- 池内
- 自然界で? これもすごくいい質問ですね。組織培養系は相当甘やかしているといいますか、菌がなく栄養たっぷりで、保湿も十分という条件で再生現象を調べているのですが、それが自然界で起こるのかというと、これは結構難しい。
茎の先端にある茎頂メリステムが切れてしまうと、植物は新しく葉や花を作れなくなり困る。そういう時、どうするのか? 普通は腋芽(えきが)、つまり脇芽(わきめ)を伸ばせばいいということで、それが植物にとってのバックアップシステムになっています。
再生現象とは、腋芽などではなく、本当に何もなかったところから新しく器官を作る現象を指します。普通に育っている植物は、ブチッと切れたら腋芽を使えばいいので、再生現象はあまりしていません。ただ、おそらく水草は結構再生していると思います。水流でちぎれて流れていった葉から新しく芽が出てきたら、そこでまた生きていける。地上だと傷口がすぐに乾いて細胞が死んしまうけれど、水の中だと乾いたりしないので、そこから新しく芽を出して生きていくことが起こっているのではないかと想像しています。

脇芽:葉の付け根や幹・茎の途中から出る芽
根と細胞からの再生の違い
- 安倍
- 朝顔の茎から根が出るのと、1つの細胞から1つの個体になるのは、スケールが違うだけで根本的にやっていることは同じなのでしょうか?
- 池内
- それも、すごくいい質問ですね。本当はもっと詳しく話すべきですが、似ているところもあるけれど、根本的に違うかもしれないと思っています。根を新しく作る時は、幹細胞のような新しく器官を作る能力を備えた細胞が準備されていて、切断刺激を受け、そこから新しく根を作っているのではないか。一方、葉肉細胞は普段は全然分裂もしないし、新しい器官を作る準備をしていない細胞です。それを培養すると突然分裂し始めるのは、刺激によって細胞が脱分化していると考えられるので、現象としては結構違うのではないかと考えています。
根の先端はどこまで切っても再生できる?
- 河上
- どこまでなら再生できて、どこからは再生できないってあるんですか?
- 池内
- ありますね。今日、お話ししなかったけれど、どこをどう切るかで、どう再生するか全然違います。根の先端には根端メリステムがあるというお話をしたのですが、先端から0.1mmぐらいで切ると元の形を作り直すことができます。でも0.2mmで切ると、もう再生できない。なぜかというと、そこまで切ると幹細胞になれる細胞が全部なくなるからです。どこをどう切るかで、再生応答はまったく違います。ただ、根にもいろいろなバックアップシステムがあり、先端がなくなったら側根。根が枝分かれを作り、そちらを伸ばすので別に困ることはありません。
3-2 研究内容以外について
- 河上
- 生物以外に何か興味を持たれているものがありますか。
- 池内
- 高校の時にすごく好きだった本が『自然にひそむ数学』※1と『暗号解読』※2で、自然現象を数理的に研究することに憧れていました。今、共同研究者と一緒に初めて微分方程式が入った論文を執筆しています。もうすぐあの頃の夢を1つかなえられそうで感慨深いです。
- ※1『自然にひそむ数学―自然と数学の不思議な関係』佐藤修一著、ブルーバックス新書
※2『暗号解読』サイモン・シン著、青木薫訳、新潮社
- 河上
- 研究で一番楽しい瞬間は?
- 池内
- 研究室に入ってくる学生さんはみんなそれぞれ個性豊かで、実験が得意な人がいれば、データ解析が得意な人もいます。また、研究室メンバー以外の方々と共同で研究を進めることも多いです。個性や専門性が違う人たちが力を合わせ、自分だけでは決してできないような研究をチームで成し遂げられた時は、特に大きなやりがいを感じます。
- 河上
- 研究者は英語ができないと駄目ですか?
- 池内
- もちろん英語はできた方がいいです。修士課程までなら英語論文を読めればOKですが、博士号を取るまでには英語で発表したり、英語で論文を書くことが必要になってきます。自然科学分野は英語で論文を書かないと、研究成果を認めてもらえませんからね。最初は専門用語を覚えるのが大変ですが、それさえ分かってしまえば大丈夫です。トレーニングすればできると思います。
研究室で指導していて感じるのは、そもそも日本語でも文章を書くのが苦手な学生さんが多いことです。研究を行う上で、文章を書くことは必須です。研究費獲得のための申請書類をはじめ、研究成果が出れば論文を書きます。学生さんは修士号を取るために論文を書かなければならないのですが、「論理的な文章を書く」ところで苦労する人も多いです。大学までに文章執筆のトレーニングを受ける機会が意外と少ないのかなと思いますが、研究者を目指す方は早めに身につけておけばすごく役に立つと思います。
今日は、鋭い質問をたくさんしてもらって、とても楽しかったです。
- 一同
- ありがとうございました。