この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

動植物に共通の発生メカニズムを見出したい

───いま鳥居先生はワシントン大学の教授を務めると同時に、名古屋大学でも研究活動をなさっていますね。

2012年に、名古屋大学に有機合成化学と動植物科学などの生命科学を融合した研究施設「トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)」をつくるから参加しないかと、副拠点長の東山哲也先生にお声がけいただきました。実は東山先生とは学生の頃からの知り合いで、ずっと以前に、 岡田清孝先生のCRESTという研究制度でご一緒しました。 とても魅力的なお話で、海外主任研究者として席を置き、研究グループを率いています。

ワシントン大学の鳥居ラボのメンバーとともに

───有機合成化学と協働することで、研究にどのようなプラスがあるのですか。

有機合成化学の研究者は、一人一人が異なったタイプの合成反応の強みを持っています。彼らとディスカッションし、アイデアを交換することで、研究の発想の幅が広がりますし、例えば、ある機能が働いたかどうかをVIVOで可視化する化合物とか、構造のわかった受容体にぴったりはまりそうな化合物を合成するなど、私たち生物、植物の研究に必要な新奇の合成化合物を創出してもらえるので、不可能が可能になり研究のスピードが加速する点が大きな魅力ですね。異分野の研究者同士で刺激を受けあい、WIN-WINの関係を築けているところが素晴らしいと思います。

───シアトル(ワシントン州)と名古屋という離れた場所で研究を進めるのはたいへんそうですが・・・。

ワシントン大学が夏期休暇に入る夏の間の3か月間は定期的に名古屋に来ていますし、アメリカにいるときは、週に一度は、skypeなどを使ってビデオ会議を行っています。一緒に研究室を主宰するとても優秀な打田直行准教授のサポートもあって、なんとかうまくコミュニケーションがとれているかと思います。

───ITbMでの研究成果は出ていますか。

ゼロからの立ち上げで3年経ちましたが、個性的で才能のあるラボメンバー皆さんのおかげで、新たな切り口での成果がいくつか出てきています。9月1日には、最初の大きな研究成果が著名な生物学総合誌である「カレント•バイオロジー」誌に掲載されました。植物ペプチドホルモンの新しい機能を示したしたもので、今後、ITbMの合成化学技術を使って受容体を自在にON・OFFできる薬剤を開発できれば、植物の生長や幹細胞の性質、乾燥耐性などを制御することができるかもしれません。

───これからの研究についてお聞かせください。

気孔も含めて植物の発生や分化、あるいはシグナル伝達がどのように制御されているか、これまで誰も研究していない研究を進めていきたいですね。また、気孔の発生における「細胞間のおしゃべり」を開発中のバイオセンサーを用いたライブイメージング技術を使って可視化していきたい。こうした研究を通じて、細胞分化に関して、動物にも植物にも共通の新しいメカニズムを提言できたらいいなと考えています。

───最後に中高校生へメッセージをお願いします。

これから、どんな分野が発展するかなど予測がつかないところがあるので、最初から何かに的を絞って勉強するというより、まず好きなことをやったらいいと思います。自分のコアを持ちつつ、時代の流れを利用できるくらいのフレキシビリティも必要かもしれませんね。

ITbMのオープンラボで、Co-PIの打田直行准教授とともに

(2016年7月22日取材)

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