この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

「折り紙」の発想でステントグラフトを開発

───室工大の卒業研究で取り組んだのは、どのようなテーマでしたか。

蕗の力学特性を調べるために、ラワン蕗を採集

宇宙で展開できるソーラーパネルの開発をめざし、ラワン蕗の葉の折り畳みを研究しました。ラワン蕗というのは、生長すると葉の大きさが2m近くにもなる蕗です。このような大きな葉を支える仕組みを探るために、葉を集めてきては、葉脈の形状を調べたり、引っ張り試験を行い、葉や葉脈の弾性率を計測し、数値解析のモデルを作ったりしました。ラワン蕗は北海道の足寄町でたくさん採れるので、材料費が安かったことも大きなメリットでしたね(笑)。
葉の世界には、賢い折り畳みの仕組みが隠れています。葉脈は、茎の芯に対してちょうど45°の角度でついています。冬の間は葉をたたんで春になると葉を広げて光合成を盛んに行うのですが、そのたたみ方も45°になっていて、力学的に見ても最も効率よく、省エネルギーで展開できる角度なんですよ。自然界からさまざまなことを学ぶことができます。

───その後、北海道大学の修士課程に進むわけですね。

ラワン蕗をもった繁富先生のゆるキャラ

オレゴン工科大学で医学科の授業を取ったことをお話ししましたが、そこからさらに医療系のことに関心が高まり、こうした折り畳み構造を生かして、工学的な視点から医療機器を改良するような研究をしようと考えました。
修士1年のとき北大で、4年に一度開かれる国際学会があり、このラワン蕗の葉の構造の研究についてポスター発表を行いました。単にポスターを掲示するだけでは面白くないので、北大の裏庭にいっぱい生えていた蕗を手に持ってプレゼンテーションしたんです。それがすごくウケました(笑)。MITやニューヨーク工科大やオックスフォード大など、いろいろな大学の先生から声をかけられ、これをきっかけに、オックスフォード大学博士課程に進学することになったのです。

オックスフォード大学経(25歳)

───オックスフォード大学では、どのような研究を行ったのですか。

研究室のボスからは、医療機器のステントグラフトを、蕗を使った宇宙の展開構造物と同じ発想で開発してはどうかと言われました。ステントグラフトは、カテーテルの先につけて血管に挿入し、動脈硬化によって狭くなった血管を押し広げ、血液の流れを良くして治療する医療機器です。
当初は提灯のような折り畳み方を考えたのですが、円筒の径が小さくなりません。思い悩んでいたとき、小さいころから慣れ親しんでいた「折り紙」を思い出しました。留学当初3ヵ月間は、ずっと折り紙を折っていましたね。ある夜、室工大の学生時代にドイツから来ていたアーティストが教えてくれた「パイナップルパターン」がいいとひらめきました。日本では「なまこ折り」という形です。これを使い、ステントグラフトの材料に形状記憶合金を使い、体内で一定の温度になると、展開する構造にしました。

K. Kuribayashi, et al.
Materials Science and Engineering: A, Vol. 419 pp 131-137, 2006

───そのステントグラフトは商品化されたのですか?

オックスフォード大学 Department of Engineering Science博士課程修了

プロトタイプができたとき、特許を取って起業しようと、学内外のアドバイザーからの支援を得て、ビジネスプランを練ったりして事業化の道を探りました。その後研究開発が続き、パターンはずいぶんと変更になってしまったのですが、現在動物試験の段階にあると聞いています。
博士の期間中には、研究開発以外にも特許やベンチャーを起こす機会に加えて、大学のビジネススクールとの共同で、起業家のクラブを立ち上げることもできました。現在では、ヨーロッパ最大のクラブとなっています。専門知識をしっかりと学べたことに加えて、分野の異なる先生、仲間とのディスカッションは、私の視野を広げてくれました。

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