公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「What is life?」の問いに答える研究がしたい

———東大では1、2年生は教養学部で、2年の秋に進学振り分けがあって、自分の進む学部学科を選びます。理学部を選んだのはなぜですか?

理学部を選んだのは「What is life?」、つまり「命って何?」というもっとも哲学寄りの問いに答えていく学部だから。そこが、病気を治すのがゴールの医学部や、薬をつくるのがゴールの薬学部、研究の成果をどう現実の世界に生かしていくかがゴールとなる農学部・工学部とも違うところで、自分にとって一番しっくりくるなと思ったのです。
植物学教室にしたのは、酵母研究をやりたかったからです。きっかけは、東大生協でたまたま手にとった『酵母 究極の細胞』という柳田充弘先生の本を読んで、「酵母ってすごい!」とこれまたビビビッと感銘を受けたこと。実は今、OISTの私の研究室の3つ隣の部屋に柳田先生がいらっしゃって、これも夢が叶ったひとつですね。

———酵母を選んだのも「What is life?」という問いの延長線上ですか?

「What is life?」という問いを立てるときに、モデルはシンプルであればあるほどいいんです。酵母は生き物の最小単位に近く、もちろん大腸菌などもっとシンプルなものはありますが、酵母は細胞内に核を持つ真核生物なので、同じ真核生物である私たちに近いですよね。生命の本質というものを知りたいと思った場合、より原始的なものであればあるほど本質に迫れる、そこに魅力を感じました。

出芽酵母

———モデル生物として酵母がすぐれている点はどんなところでしょう。

まず、ヒトと同じ真核生物でありながら酵母は一倍体でも生きられるということです。ヒトは二倍体で染色体が2セットありますが、酵母は1セットでも体細胞分裂を行って増殖することができます。重複が少ないため、1つの遺伝子を壊したりしたときに、それがどんな悪いことをするかというのがすぐにわかるんです。
例えば、オートバイと四輪の車をイメージしてみてください。そこでタイヤという遺伝子がどんな機能をしているのかを考えたとき、オートバイで1個のタイヤを外すとパタッと倒れてしまって、前に進めません。一方、タイヤが4つある車でタイヤを1つ外しても、ガタガタするけれど何とか前に進みます。タイヤは何のために必要かを探るには、オートバイで調べた方がずっとわかりやすいでしょ。

———まさに酵母がオートバイで、ヒトの細胞は4輪の車というわけですね。

だから、ある現象について何もわかってないとき、例えばどこに遺伝子が効いているかわからないというとき、酵母を使えばよりシンプルな方法でそれを知ることができるんです。片っ端からいろんな遺伝子をつぶしていって、どんな悪いことが起ったかを見ていくという手法で、生理学や医学の研究の歴史で重要な役割を果たしてきたのが酵母の研究です。 今でこそヒトの細胞でもクリスパー・キャス9などの遺伝子編集の最新技術を使って遺伝子を扱えるようになりましたが、昔は酵母ほど簡単に遺伝子をつぶせる生き物はなかったし、そのシンプルさと遺伝学的な扱いやすさというところで、酵母は生命科学に多大な貢献をしてきたといえますね。
実際、世界中の多くの研究者が酵母を使った研究に取り組んでいて、2001年から2016年までにノーベル生理学医学賞を受賞された先生方39人のうち、5人の先生が酵母を使った研究で受賞されています。細胞周期の制御因子を発見したリーランド・ハートウェル博士とポール・ナース博士が2001年、テロメアとテロメラーゼが染色体を保護するしくみを発見したジャック・ショスタク博士が2009年、細胞内の小胞輸送を解明したランディ・シェックマン博士が2013年、そして2016年がオートファジーの仕組みを解明した大隅良典博士。いずれもそうそうたる方々です。

———ところで大学時代はサークルとか部活には所属されましたか?

競技ダンス部に入っていました。サークルで楽しく踊るんじゃなくて、運動競技としてのダンスの部活です。社交ダンスをスポーツ化した競技で、男女が二人一組になって、技術や表現力を駆使して踊り、点数を競い合うもので、かなりきついんです。これまた、子どものときのバレエや短距離走に打ち込んだときと同じで、新しい技術を身につけてどんどんうまくなるのが楽しくて、かつ、コンテスト形式なので順位がつくこともやりがいになった。とても性に合っていましたね。