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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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細胞内のシグナル伝達は「ピタゴラスイッチ」

———大学院ではどの研究室を選んだのですか。

細胞壁がご専門の大矢禎一(よしかず)先生の研究室です。植物学で講義をしてくださった先生方の中で、大矢先生はホントに講義がお上手だったんですね。それで心酔して、お世話になることにしました。

大矢研時代。ラボの仲間とともに。中央の紺色のTシャツ姿が大矢先生、一人置いて左が河野先生

———取り組んだテーマは?

院に進んだばかりのころは、どんなテーマで研究したらよいかなんて、わからないものです。先生に相談したら、「論文を読みなさい」と。いろいろな論文をたくさん読んで、自分がどんなテーマをやりたいかを考える訓練をするように言われました。
同期の学生たちがすぐに現実的なテーマをつかんでいく中で、私はなかなかテーマが決まらなかったのですが、結局、細胞が分裂する際に一番重要な司令塔の役割をするサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の指示のもと、酵母がどのように芽を出したり、分裂したりするのかを調べることにしました。
そのときに興味を持ったのがシグナル伝達です。細胞の中って、まるで「ピタゴラスイッチ」みたいなんですよ!

———「ピタゴラスイッチ」ってNHKのEテレで土曜日の朝にやっている子ども向け番組のことですよね?

オープニングとエンディングに流れる映像で出てくる「ピタゴラ装置」、いろんな仕掛けでドミノ倒しみたいに次々にいろんな動きが連鎖していくからくりですが、あれがまさに細胞の中と同じなんです。
何かシグナルが入ると、ビー玉が転がり出す。そのビー玉が次に何かを押して、今度はそれが転がっていって、パタパタパタっていろんなことが起こって、最後は、酵母だったら芽が出る、あるいは分裂する。どんな因子が原因で、そうなるのかを探っていくんですが、遺伝子をつぶすと普通の酵母とは違うことが起きる。「なんてうまくできているんだろう!」と夢中になりました。

———研究にのめり込んだんですね。

今から思えば浅いレベルのおもしろさだと思いますが、一つひとつの実験が本当に楽しかったし、いろいろなものを染めて顕微鏡で見れば美しいしで、感動の連続。そしてミステリーを解くようなおもしろさが研究にはありましたね。

———ミステリー…?

あるいはパズルといってもいいかもしれませんが、いろんな実験結果のエビデンスを突き合わせていって原因の因子を探っていく。こっちをオンにしたらここがこうなる、オフにしたらこう…ということは、こういう仕組みに違いない。「お前が犯人だな」、みたいなことですね。

———研究の成果は出ましたか?

この研究は、学部時代の卒論でお世話になった東江研究室の2年先輩で、当時ボストンに留学していた吉田知史(さとし)さん(現・早稲田大学教授)との共同研究に発展し、細胞が2つに分かれるとき、CDKと協同して働く細胞周期を調整するキナーゼが、細胞骨格を制御するRhoというタンパク質をどのようにコントロールし、細胞分裂を促進するのかを明らかにすることができ、2006年の「Science」に掲載されました。