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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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留学でプログラミング技術を身につける

———その後、英国グラスゴーのストラスクライド大学に留学されていますね。留学先はどのように選んだのですか?

そろそろ海外に行きたいなと思っていたころ、山中先生の紹介で、ここはどう?と言われてストラスクライド大学に決めました。大学に入る前は、理系だったら英語は要らないんじゃないかぐらいに思っていたんですが、論文を読むにも学会で発表するにも英語は必須ですし、英会話ができるようになるには、もう海外に行くしかないと思っていたので、渡りに舟という感じでした。

———留学して得たものは?

新しい技術を学ぶことができました。神経科学の分野はどんどんビッグデータを利用するようになってきていて、それを解析するのにプログラミング技術が必要になっています。プログラミングは一切できなかったんですが、多少かじるようになって、何が書いてあるかはわかるぐらいになり、解析で使ったりできるようになりました。
また、マウスが寝たり起きたりしているときの神経活動を、以前は一個の神経からだけとって記録していたんですけど、今や何百個の神経から同時にとって記録できる時代になっていて、その技術はグラスゴーで身につけてきました。

留学先のボス(坂田秀三博士)の家でラボメンバーとホームパーティー(左から2人目)

ラボメンバーとの集合写真(写真右端)。左から2人目が坂田先生

———研究での成果はありましたか?

レム睡眠中に脳幹で発生する脳波の一種であるPGO波を、世界で初めてマウスで見つけることができました。PGO波は夢に関係しているのではないかと昔からいわれていたんです。なぜかというと、脳波がP(Pontine:脳幹の橋)―G(Lateral geniculate nucleus:視床の外側膝状体[がいそくしつじょうたい])―O(Occipital cortex:後頭葉の視覚野があるところ)へと伝わっていくのでPGO波と呼ばれるのですが、視覚の情報処理も、網膜―外側膝状体―視覚野という神経回路なので、すごくよく似ているんですよ。だから、夢を見させているのはPGO波ではないかと1960~70年ぐらいからいわれているのですが、まだ誰も証明できていません。

———これまでマウスの脳には存在しないとされていたPGO波を見つけた。定説を覆したわけですね?

留学先でボスと一緒に取り組んだ仕事ですが、この発見で夢の研究に少し近づいたという思いがあります。ヒトはなぜ夢を見るのかというのが一番知りたいことですけど、それを知るためにはまず、どういう神経が働いて夢を見させているかを知らないといけません。そのとっかかりの1つとして、今後はマウスを使って、どういう神経がPGO波をつくっているのか、どういうふうに伝播していくのか、といったところを攻めていこうと思っています。

グラスゴーに遊びに来た家族と

スコットランドの秘境・スカイ島のフェアリープール。水を見ると入ってしまう。