公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

マウスが夢を見ていることを証明したい

———グラスゴーから帰国して、東北大学の助教でPI(Principal Investigator:研究室主宰者)として自分の研究室を率いていくことになりましたね。

東北大学の学際科学フロンティア研究所(FRIS)は2013年度から毎年5~10人の若手研究者を5年の任期付き助教として国際公募していて、採用されればPIとして研究環境と研究資金が与えられます。私もそれに応募し、採用された一人です。

———それまでは指導してくれる先生のもとで、与えられたテーマについて研究していたのが、独自の研究テーマを掲げて、ラボを運営していく立場になったということですね。

FRISには「メンター制度」があって、一人ひとりの助教に対して学部に所属する教授・准教授が指導役としてつきます。FRISの助教を独立した研究者として支援する仕組みになっています。
私のメンター役になった先生がグリア細胞から神経細胞への信号伝達を研究していたことから、グリア細胞のひとつ、アストロサイトに着目することにしました。アストロサイトと睡眠の研究は、まだあまり手がつけられていないテーマでしたから、何か出たらおもしろいと、これもまたノリで始めたんです。

———2021年5月に、アストロサイトと睡眠覚醒に関する新しい知見を論文で発表していますね。

私たちの脳は神経細胞とグリア細胞から構成されています。脳の半分以上を占めているのがグリア細胞で、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアの3種類があります。このうちアストロサイトは、星雲のように脳内の神経細胞や血管を覆っていて、神経細胞の栄養補給を担うほか、神経伝達物質をやりとりしています。例えば私たちが徹夜などをして睡眠負債が高まると、アストロサイトがアデノシンという睡眠誘発物質を放出することが知られていました。さらに私たちの研究で、アストロサイトの活動が覚醒時に高まり、睡眠時、とくに夢を見ているレム睡眠時に低くなることが明らかになったのです。
これまでは睡眠と脳との関係については、神経細胞の働きばかりが注目されていましたが、グリア細胞も含めた脳全体での睡眠のメカニズムや生理的な役割の解明が重要になっていくと考えています。

アストロサイトの細胞内カルシウム濃度は、マウスが睡眠に入ると徐々に減少し、レム睡眠では最も減少、覚醒時には増加する。
2021年5月18日付 東北大学プレスリリース「 睡眠覚醒における脳細胞に関する新知見」より

———今後、睡眠の研究で一番やりたいのは、やはり夢の研究ですか?

答辞で宣言しましたしね。
私たちは人生の3分の1を寝て過ごしており、とくに夢は非常に重要な働きをしているはずなのに、なぜ夢を見るのかという根本的な問いにすら、いまだ明確な答えが出ていないのです。記憶に関わっているのだろうということはみんな考えていると思うんですが、記憶を整理しているのか、古い記憶を忘れないようにしているのか?
いらないものを消去して必要なものを残しているといったことをやっていそうには思うんですけど、どう証明していくか…。

———脳波ではわかりませんか?

脳波だけではダメですね。ふつう夢の研究は、実験対象にヒトを使っていて、夢を見たかどうかは、眠っている被験者を起こして、「今、夢を見ていましたか?」「どんな夢を見ていましたか?」と聞いて、こういう脳波のときにこういう夢を見たと調べていくわけですが、ヒトでは遺伝子操作をすることができませんし、脳に介入する実験は困難です。
マウスであれば、細胞内のイオン濃度の変化を光で計測するとか、光を使って神経活動を操作することで脳内の回路を明らかにすることができるんですが、そもそもマウスが夢を見ているかどうかさえ、まだわかっていないんです。
マウスに「いま夢を見てた?」って聞いたこともあるんですが、何も言ってくれませんしね(笑)。だけど、夢を見るのはレム睡眠のときがメインで、マウスにもレム睡眠に特徴的な急速眼球運動がありますから、きっと夢を見ているだろうと思っているんですが、誰も証明できていません。
でも、最近「これだ!」とひらめきを得る機会があったんですよ。

———どんなことですか?

FRISでは毎月、分野が異なる研究者が集まって、それぞれの専門家が自分の研究を発表するセミナーがあります。あるとき、サルの脳波からサルが見ている画像を再構築する実験報告を聞いて、「おーっ、これだ!」と思いました。
この方法を使えば、眠っているマウスがどんな夢を見ているかがわかるかもしれません。
そこで、科学技術振興機構(JST)の「創発的研究支援事業」に、「ディープラーニングを用いたマウス夢見証明への挑戦」というテーマで応募し、採択され、いまセットアップを進めています。

———楽しみな研究ですね!

実現できればマウスが夢を見ていることが証明できるし、その後、どういう神経が働いて夢を見させているのかとか、夢と記憶の関係を神経細胞レベルで調べていくことだってできるはず。世界の誰も挑んだことがない研究です。

———研究していて、どんなときが一番ワクワクしますか?

自分が手を動かして実験しているときが一番ワクワクしますね。マウスにオペをしているときも、めちゃ楽しくて、趣味の領域になりつつあります。仕事休みの土日にオペしてリフレッシュ、みたいな境地。
実は博士課程のときにマウスアレルギーになって、2日マウスの実験をしたら1日寝込んでしまうこともあります。「次にマウスに嚙まれたらアナフィラキシーで死にますよ」って脅されているので、実験室にエピペン*を置いているんです。みんなから「実験は引退したほうがいい、やめなさい」と言われても、新型コロナで医療者が使うN-95のマスクをつけて実験しています。マウスの顔を見ると元気が湧いてくるので、やめられません。

*エピペン:ハチ毒をはじめ、食物や薬物などによるアナフィラキシー(アレルギー反応でも生命に危機を及ぼすほどの重篤な状態)の症状を緩和するために自己注射するペンタイプの補助治療剤のこと

———ところで、趣味は「モーニング娘。」の追っかけだそうですね?

今から20年以上も前ですけど、私が中学か高校のころにモーニング娘。がデビューして、そのころからのファンです。今はコロナ禍で自粛していますが、その前までは、年間30公演ぐらい行ってました。

———年30公演も行ってたなんてすごい!

モーニング娘。がだんだん成長していく姿を見ながら応援していると、自分も成長していかなくちゃ、がんばろうという気になります。追っかけをしているときは、土日の休みに4公演あったりするので、一緒に移動して、クルマを運転しながら研究のことを考えていると、フッといいアイデアが浮かんだりします。
だから私にとって、モーニング娘。なしでは研究生活は成り立たない。追っかけすぎて、私と同年代の石川梨華ちゃんからは「つんちゃん」と呼ばれるようになって、「睡眠の研究、がんばってる?」って逆に励まされることも。
石川梨華ちゃんはだいぶ前にモーニング娘。を卒業しちゃったんですけど、その後は、去年の12月に卒業した、だいぶ年下の佐藤優樹ちゃんにハマっていて、やっぱり信念を持ってどんどん成長していく人を見ると応援したくなりますね。

———サイエンスに興味を持っている中・高校生にメッセージを。

うーん、上から目線のことは言いたくないんだけど、まず好きなことを見つけてほしい。見つかったら前に突き進んでいってほしい。まあ、何とかなるよっていう精神でやっていけば、人生、楽しいかもしれないと思います。そのためには、「自信がないからやらない」という選択肢はつくらない方がいい。やってみて、考える。私の場合も、泳げないけど、飛び込んでみてから考える、でしたから(笑)。

ラボメンバーとともに

(2022年8月29日更新)