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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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初めて研究室に行った日に思った、「私の居場所はここ」

———大学では1年次から生物学全般を学ぶのですか?

はい。生物学類の中の例えば分類学とか生態学とか神経科学とか遺伝学とか、好きな授業を選択できます。私は万遍なく受けましたが、やはり睡眠をやりたかったので、1年のときから積極的に勉強したのが神経科学です。

———アルバイトなどは?

蕎麦屋のアルバイトのほか、ある研究所でお手伝いをしていました。筑波にはいろんな研究所があって、菌の系統分類などをやっている研究所で、どうせ研究者になるなら必要になるだろうとPCRとか遺伝子解析とかの手伝いをしていましたが、勉強もしないといけないのであまりバイトはしていませんでしたね。

———勉強以外で、大学生活で印象に残っていることはありますか。

今はわかりませんが、筑波って大学1年生のとき、8割方の学生が大学の宿舎に入るんです。そのお祭りが毎年、学園祭とは別にあって、その実行委員をやっていました。宿舎祭は学生主体で運営するお祭りですから、寄付金をもらいに行ったりいろんな仕事があって、私は模擬店の担当で、模擬店で必要になる食材をまとめて買って配分したりしていましたね。

宿舎祭のハッピを着て

———卒業研究での研究室選びはどうしましたか?

大学3年のときに、たまたま手にした雑誌に睡眠の研究の記事が載っていて、まさにこういう研究をしてみたいという研究だったんです。「あっ、ここだ!」とビビビッときて、どこの大学だろうと思ったら、当時、筑波大学基礎医学系の助教授をしておられた櫻井武先生の記事でした。
すぐに櫻井先生のところに行って、お話をうかがいました。私がいた生物学類と櫻井先生のいる基礎医学系では分野が違うんですが、私は生物学類の中でも人間生物学コースに入っていて、そこは基礎医学系でも卒業研究ができるというコースだったので、何の障害もなく櫻井先生の研究室に入ることができました。

———ラッキーでしたね。

大学3年の夏ぐらいから櫻井先生の研究室に通い始めて、そこに講師でいた山中章弘先生*(現・Chinese Institute for Brain Research, Beijing[CIBR]で山中ラボを主宰)から電気生理学を習いました。初めてラボに行ったとき、自分の居場所はここだと感じましたね。雰囲気が合っているっていうか、こここそが探し求めていた場所なのかもしれないと思いました。

*山中章弘先生については、「いま注目の最先端研究・技術探検!」第45回
「光遺伝学などの最新ツールを駆使して、睡眠と記憶、夢の研究に迫る」を参照
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/technology/45/index.html

———櫻井研ではどんな研究を?

覚醒の維持に重要な神経ペプチドであるオレキシン*を見つけた研究室でしたから、オレキシン神経に関する研究をまずやりましょうということになりました。電気生理学が得意な山中先生の下について、最初はスライスパッチクランプ**という方法を使って、マウスの脳のオレキシン神経細胞の活動をガラス管電極で取りながら、いろんな試薬をかけて活性化したり抑制したりして、その際のメカニズムの解明に取り組みました

*オレキシンと櫻井武先生の研究については、「フクロウ博士の森の教室 シリーズ2 脳の不思議を考えよう」第7回 「睡眠と脳のメカニズム」を参照
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/s2_07/interview01.html

**スライスパッチクランプ法:マウスやラットなどの脳組織を 200 ミクロン程度の薄いスライス切片にし、顕微鏡下で観察しながら、ガラス管電極を密着させ、細胞の内部に電流を流したり、細胞外を刺激したりして、個々の細胞の電気的な活動を記録する方法。

———細かい技が必要になったりするんですか?

スライスパッチクランプ法ではガラス管電極を細胞に上手に密着させる必要がありますし、マウスの手術はけっこう手先の器用さが求められます。

———うまくできましたか?

小さいころ、雨が降っている日などに虫眼鏡で見ながら極小の折紙を飽きずに折っていました。そのころから細かい作業が好きで、顕微鏡を使った作業は大得意でしたね。