公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

光遺伝学などの最新ツールを駆使して睡眠と記憶、夢の秘密に迫る~名古屋大学環境医学研究所 山中研究室を訪ねて~

私たちはなぜ眠るのか? 眠っているときになぜ夢を見るのか? 睡眠と記憶の関係は?
私たちの誰しもが、1日の3分の1近くの時間を費やしている睡眠だが、実はわからないことだらけ。そのナゾの解明に、光遺伝学や化学遺伝学など最新のツールを駆使して取り組んでいるのが山中先生だ。最新の研究では、ある神経をレム睡眠中に活性化すると記憶を消去する働きがあることを発表し、注目を浴びている。
睡眠や記憶研究の扉を開く光遺伝学

試験前に夜遅くまで勉強して一生懸命暗記して本番でヤマが当たったのに、せっかく覚えたはずの名前が思い出せない。そんな経験はないだろうか?
GABAチョコレートが記憶にいいとか、青魚に含まれるDHAやEPAのサプリが記憶力アップに効果があるという話も聞くけれど、しっかり睡眠をとって、重要なことは繰り返し声に出したり、ノートをとったりして覚えるというのが王道のようだ。

ところで、睡眠と記憶については現在の科学でどれくらい解明されているのだろう?
実は、だれもが毎日とっている睡眠がなぜ必要なのかさえ、有力な仮説はあっても、正確なとことはわかっていないという。なぜ眠くなるのかという当たり前に思えるようなことだって謎のままだ。かつては、眠気物質のようなものが脳に徐々にたまっていくためと考えられていたが、脳内の80種類のタンパク質のリン酸化が関係しているという有力な仮説が最近登場している。

睡眠と記憶の謎は、ゲノムが読み解かれ、さまざまな解析ツールが開発されることによって、近年少しずつ明らかになってきた。ことに、21世紀に登場した「光遺伝学(オプトジェネティクス)」という研究技術が、この分野の研究に大きな革新をもたらしている。
光遺伝学とは、簡単にいうと、遺伝子を導入して神経細胞に光に応答するタンパク質を発現させ、特定の波長の光を照射することによって、その神経の活動を活性化させたり抑制させたりする研究技術のこと。米国スタンフォード大学のカール・ダイセロス博士が、2007年に生きている動物の行動を光で操作することに成功し、神経活動と行動との因果関係の研究が一気に進んできた。

◎光遺伝学については、「いま注目の最先端研究・技術探検!」第27回「光を用いて神経活動をコントロールする『オプトジェネティクス』の可能性」を参照
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/technology/27/index.html

光遺伝学と電気刺激の比較
光遺伝学では、光応答性タンパクを発現させた特定の神経細胞のみを、透過性の高い光によって操作することができる。一方、従来の電気刺激では、電極周辺の軸索や細胞体が非特異的に刺激される

また、ターゲットとなる神経の活動を特定の化学物質を用いてコントロールする化学遺伝学と呼ばれる実験技術も登場している。光遺伝学が、特定の神経を光を用いて高い時間精度で一斉にオンオフするのに対して、化学遺伝学では神経活動のコントロールに化学物質を用いる。作用発現までに一定の時間経過が必要になるため、実験結果との因果関係が光遺伝学と比べると若干弱くなるという難点がある。しかし、光遺伝学はターゲットとなる神経を一斉に同期させるという実際の脳活動ではありえない活動をするので、双方の特徴を生かして研究することが重要だという。

ただし、光遺伝学も化学遺伝学も、遺伝子操作が必要なため、今すぐに人間に対して用いることはできない。そこで主に研究対象となっているのがマウスだ。マウスはゲノム解読も完了しているうえ、遺伝子改変の技術が適用しやすい、しかも、ノンレム睡眠とレム睡眠の2種類の睡眠を明確に分けて行っている点でも睡眠や記憶を探る実験動物として適している。

名古屋大学環境医学研究所教授の山中章弘先生は、早くからこれらの手法に着目、マウスを使って睡眠と記憶の関係を探求している。

山中 章弘(やまなか・あきひろ)

名古屋大学環境医学研究所
神経系分野2 教授

香川県生まれ。2000年 筑波大学大学院 医学系研究科博士課程修了。博士(医学)。同年同大学先端学際領域研究センター助手。02年同大学基礎医学系講師。04年同大学大学院人間総合科学研究科講師。06年日本学術振興会海外特別研究員・Yale大学医学部客員研究員(兼任)。08年自然科学研究機構生理学研究所准教授。09年科学技術振興機構さきがけ研究員兼任。12年より現職。16年科学技術振興機構CREST研究代表者兼任。

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