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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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シカゴのフィールド自然史博物館へ

———大学院修了後、博士研究員として国立科学博物館(科博)に在籍されます。

28歳で博士号を取得し、学振特別研究員(PD)の博士研究員として科博で研究を続けました。しかし、任期は3年間なので、次の就職先を探す必要があります。公募情報を見つけては片っ端から応募していたのですが、いっこうに次のポストが決まりません。任期が切れるまであと半年ぐらいというとき、国内のある研究施設から就職の話がきました。就職すれば身分も生活も安定するわけですから、安心して研究に打ち込むことができます。
ところがその研究施設から内々定を受けた直後、応募していた海外特別研究員の内定通知が届いたのです。

———安定した就職先か、海外での研究か、迷うところですね。

大いに迷いました。海外特別研究員の期間は2年で、派遣先はアメリカ・シカゴにあるフィールド自然史博物館。世界でもトップレベルの博物館です。安泰の道を選ぶか、それとも外国の最先端の研究施設に行って挑戦するか?
ちょうどそのとき、ヒゲブトハネカクシ研究で世界をリードするスティーブ・アッシェというアメリカの研究者が58歳の若さで亡くなったという知らせが届きました。ヒゲブトハネカクシについてはまだまだわかってないことが多い。それなのにその研究の大家であるアッシェさんが亡くなったと知って、「これはアメリカに行って研究しろということだな」と何か天啓(てんけい)を受けたような気持ちになって、アメリカに行くことを決めました。

———留学先のフィールド自然史博物館というのはどんなところでしたか?

日本とはまるでレベルが違うんですよ。実に巨大で、すごいコレクションがあって、研究者は雑用なんかしないで研究だけしている。
しかも、ハネカクシ研究で世界的に著名なアルフレッド・ニュートン博士とマーガレット・セイヤー博士というご夫婦がいらして、世界に生息するハネカクシの約半数の種の標本が収蔵されているんです。ハネカクシを研究するには世界最高の環境が整っていると言っていいでしょう。そういう環境の中で研究ができたのですごく勉強になったし、今まで見たことがなかった実物や標本を観たりして、得るものは大きかったです。

ニュートン博士(中央)とセイヤー博士(右)とともに

———海外留学のよさをどう感じますか?

外国を見ておくというのはすごく大事だなと思いました。価値観とか文化が違うところで暮らしてみるのは、見識を広める上でとても役立ちます。よく「外国に行かなくてもいい」と言う人がいるけれど、それは行った人でなければ言ってはいけない言葉だと思います。実際に行くと、博物館にしても日米の違いがわかって、では日本で何ができるのかといったことが見えてくる気がします。

———とはいえ、帰国後のことも心配になりますよね。

シカゴにいて1年数カ月経ったときに、現在の職場である九州大学総合研究博物館の助教への就職が決まりました。それまで九大は九大出身者しか採用しなかったらしいのですが、公募があったのでダメモトで応募したところ、採用の知らせが届きました。うれしかったですねぇ。