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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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自分にしかできない研究――イメージングを使った免疫学

———研修医として入局したのは、大阪大学医学部附属病院の第3内科(現在の呼吸器・免疫内科)ですね。どういういきさつで第3内科へ?

第3内科を率いておられたのは、のちに総長になった岸本忠三(きしもとただみつ)先生でしたが、私が学部6年のころに学生のとりまとめ役をしていたとき、当時医学部長だった岸本先生と面談する機会がありました。先生から第3内科の話を聞いて「おもしろいところだな」と思ったのが理由の1つです。その後、第3内科の説明会に行ったときも、ほかの医局はとにかく「来い、来い」と熱心に誘うのに、「うちのいいところはある程度自由があって、出入りも自由。合う・合わないがあるから、来たかったら来たらいいんじゃない?」と無理強いしないところが気に入り、決めました。

———将来は研究をと思っていたのなら、そのまま大学院に進む道もあったと思うのですが?

ある程度臨床経験を積んだ上で、研究をすることが大切だろうと考えていました。それで研修医として2年経って、岸本先生に免疫の教えを乞おうとしたら、岸本先生は総長になって第3内科からいなくなってしまったんです。総長室に相談に行ったら「好きにしたらいいんちゃう?」(笑)。それは決して冷たい言い方ではなく、いろいろなことを経験した方がいいという岸本先生なりのアドバイスだったんですね。

———それでどうしました?

そんなときに、学部生のときにお世話になった薬理学教室の倉智先生から話があり、助手として採用してもらうことになりました。臨床医として免疫内科を担当していたのが、もう一度、心筋や神経の興奮性膜をもった細胞の電気生理とかイオンチャネルのシグナル伝達を制御するメカニズムの研究をやるようになって、そこに5年いました。
薬理学教室にいたときに医学博士の学位も取得したのですが、そのとき考えたのが、自分のこれからの研究テーマをどうしようかということでした。学位をとったあとの研究テーマというのは、自分がこれから独り立ちして、今後の10年後、20年後の研究人生がかかってくるテーマです。いろいろ考えた末、やはり自分のテーマとしては免疫をやりたいと。

倉智先生とともに

———すると再び第3内科に戻ったのですか?

倉智先生には「すみません」と謝って、第3内科にもう一度戻り、研究施設もある国立病院機構の大阪南医療センターで臨床医をしながら研究に取り組むことにしました。

———5年間、薬理学の研究をして、それでもやりたかったのは免疫だった。免疫を選んだポイントはどこにあったのでしょう?

自分にしかできない免疫学研究をやりたいと考えたんですよ。何しろ、人と同じことはやりたくないというのが私の性分ですから。

———先生にしかできない免疫学研究とは?

当時の免疫学は、細胞や免疫のシグナル分子を同定して、ノックアウトマウス*をつくってその働きを調べるといった、分子生物学的なアプローチが主流でした。それぞれの分子や細胞がどんなふうに情報伝達しているかはモデル図を使って説明するわけです。しかし、私のバックグラウンドは、薬理学で培ったイメージングによって細胞や分子の動きをライブで解析する技術。それと免疫学を組み合わせ、各細胞がいつどのように移動し、そこでどのような振る舞いをするのか、生きた細胞たちが動くそのリアルな姿を解き明かしたいと考えたのです。

*ノックアウトマウス:ある遺伝子をなくしたり壊したりして働かないようにした(ノックアウト)マウスのこと。このマウスを使い、病気と遺伝子の関係や、ある現象が起こる生体内のメカニズムなどを研究する。

———先生を惹(ひ)きつけて放さない免疫研究のおもしろさとは?

免疫の研究はナゾ解きみたいなところがあります。特に自己免疫疾患は病気の原因も発症メカニズムもわからないことが多い。血管が詰まったとか、胃にがんができたというのなら治療学を進歩させれば治すことができるけれど、いろいろな症状が出てきて、何が起こっているかわからないというのが免疫疾患です。調べれば調べるほどわからないことが出てくる。それがまた、研究対象としての魅力でもありますね。

———免疫疾患の中でも先生が研究の対象にしたのが関節リウマチですね。

大阪南医療センターのリウマチ内科は関節リウマチの患者さんが多いところでした。関節リウマチは自己免疫疾患の1つで、免疫の異常により関節に炎症が起こり、関節が腫れたり痛んだりするのですが、進行すると関節の軟骨や骨が破壊されて変形し、日常生活にも支障をきたすようになる病気です。臨床の現場で、重度の骨破壊に苦しむ患者さんを数多く診るうち、炎症でどのようにして骨が破壊されるのかに興味を持つようになり、破骨細胞の研究を始めました。

———それまで、関節リウマチの患者さんの骨破壊のメカニズムはわかっていなかったのですか?

スライスした標本で、骨破壊は破骨細胞という骨を壊す細胞が関節に集まって起こることはわかっていました。破骨細胞は骨の中の骨髄にいる細胞で、一方、骨の外にあって骨と骨の隙間にあるのが関節です。では、なぜ、どのようにして破骨細胞が関節に集まってくるのかが、わかっていなかったのです。どうやって動いてくるのか、骨の中からか、あるいは骨髄から血流に乗ってやってくるのか? 培養系や固定組織の解析には限界を感じていて、実際に破骨細胞が骨を破壊している様子を生きた骨の中で見られないかと挑戦したのが、生きた骨組織内のイメージングでした。

大阪南医療センターに勤めていたころ