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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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大学院の研究室でメダカと出会う

———久保先生の研究室では何を研究したのですか。

研究室では先生が研究するミツバチ以外に、7種類ぐらいかな、それぞれのメンバーが好きな生物を扱っていて、ぼくはメダカをやることにしました。
メダカを研究対象に選んだのは、当時、久保先生のもとで助教をしていた竹内秀明*(たけうち・ひであき)先生の思惑もあったんです。まだぼくが学生のころに、竹内先生に誘われて神経系の合同セミナーに参加するようになった。飲み会や昼飯もおごってくれて、そのたびに「今度メダカの研究を始めるんだ」と熱く語ってくれました。それを聞くうちにぼくもやってみたくなったんです。いま考えれば、竹内先生は新しい研究を立ち上げるにあたって、無鉄砲で後先考えない馬力のある若手を探していたんでしょうね。そういう大学院生が1人いると研究がよく回ると、いま自分が同じ立場になってとてもよくわかります。

*竹内秀明:当時久保研究室助教。現在、東北大学大学院生命科学研究科脳生命統御学専攻分子行動分野教授。専門はメダカの社会性の行動選択にかかわる分子神経機構と進化的起源の解明。

———メダカの1本釣りに、見事にかかってしまった!?

ところが研究室に入って「さあ実験だ」と思ったら、メダカは1匹もいない。じつは、メダカを扱うのは研究室でも初めてだったんです。そこで、武田先生の研究室からオスとメスのメダカをいただいて、アダムとイブと名づけて研究を始めました。竹内先生からは「奥山くん、遺伝子と神経と行動を結びつけて、5年間、君が飽きずにできる研究を自由にやっていいよ」と言われました。

大学院生のときのメダカの研究チーム。写真中央が竹内秀明先生。

———武田先生がメダカの全ゲノムを解読したころですか。

それもあって研究対象に選んだんですね。でも、研究室の同期が分子生物学の成果をどんどん出していくなかで、ぼくらはメダカを効率よく増やす方法を考えるばかりで研究テーマも絞れない。そうして半年が過ぎたころ、メダカの恋愛を分子生物学で解明してやろうと思い立ったのです。

———前回取材*した「メダカの恋に火をつける」メカニズムの研究ですね!

はい。メダカを増やしていたときに、技官(大学の技術職員)の方から「ガラスでオスとメスを仕切って、お見合いさせてから仕切りをはずすと簡単に卵が採れる」と聞いたんです。繁殖のためのノウハウですが、それを恋愛行動の研究と関連付けて調べていくうちに「メダカは見知ったオスを好んで配偶者に選ぶ」ということ、その受け入れスイッチとなる分子機構を見つけ、2011年に博士論文にまとめることができました。この論文に追試などを行い、正式にScience誌に掲載されたのが2014年1月のことです。

*いま注目の最先端研究・技術探検!第22回「メダカの恋に火をつけるニューロンを発見!」
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/technology/22/index.html

———大学院時代、研究以外に打ち込んだことはありますか。

研究の合間を縫って海外で武者修行をしていました。大学院に入って英語の必要性に気づいたのです。それまで海外に行ったこともなかったので、まず、2008年9月に東京大学のグローバルCOE*の制度を使って、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)との海外交流プログラムに参加しながら、サンフランシスコのあちこちの研究所を回って自分の研究のセミナーを行いました。そして2008年から2012年にかけて、先進国だけでなく、バックパックでボルネオやアマゾンの秘境も含め、20か国以上をまわりました。何度か風土病にかかって生命の危機に瀕することもありましたが、修行のおかげで、英語に対する抵抗感はまったくなくなりましたね。

*グローバルCOE: わが国の大学院の教育研究機能を充実・強化し、世界を牽引する創造的な人材育成を図るため、国際的に優れた教育研究拠点の形成を重点的に支援する文部科学省のプログラム。COEは「センター・オブ・エクセレンス」(卓越した拠点)の略称。

大学院生で世界中を放浪していたころ。ペルー首都リマの最も治安が悪いスラム街にて。

アマゾン川のほとりにて。謎の「魔法の木」を切って、そこから取れる水はフィルターされていてキレイ。

———英語でコミュニケーションするための武者修行ですね。

大学院で研究しているうちは、ポスター発表は多いのですが、国際学会で発表する機会ってあまりないんですよ。日本の学会で日本人同士の英語の発表や質疑応答はやりますが、意識して英語を話す機会を作らないと後になって苦労するなと思ったんです。