公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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日本に戻り、さらなる研究を

———24年の春に理研に着任されましたが、ベルギーで研究を続けていこうとは考えなかったのですか。

そもそも、ベルギーで終身雇用資格を取るにはオランダ語の語学試験に合格することが最低条件なんです。そこまでして滞在するつもりはありませんでした。次のことを考えていたときに、理研のポスト募集を知って手を上げました。他にも候補はありましたが、広い分野の世界で一流の研究者がいる環境と、基礎研究費が毎年いただけることが魅力でした。

———当分は、日本で研究をすることになるのですね。

クビにならない限り(笑)頑張りたいと思っています。個人的な話になりますが、私には娘が1人いるんです。歳は未だ10ヵ月半ですが、ベルギーで出産して1人で育てようと決めていました。理研には研究所内に保育所があるので、そういう意味でもありがたかったのです。
当初はアシスタントとテクニシャンの3人でのスタートだったのですが、実験機器もすべてベルギーから移動して自由に使えるように手配し、9月からはポスドクが1人、学生が1人、テクニシャン(技術補佐員)も1人増えました。いよいよこれから本格的に始動します。

娘を連れた初の学会出張

娘と楽しむヨーロッパの週末

———今後の研究のテーマは決まっているのですか。

当分は脊髄の学習について、もっと詳しく調べていこうと考えています。まずは、毎日繰り返し練習するような長時間の運動モデルで細胞の働きを調べる予定です。障害物走のように2、3分に1回、足を高く上げるような学習での実験を考えています。

———先生が研究でいちばんワクワクするのはどんなときですか。

なんといってもデータの解析です。実験のデータを誰もがわかるように視覚化していくのがいちばんおもしろい。その過程でさらに新たな発見があったり、次の実験のアイデアが浮かんだりもします。1つの実験ですべての答えは絶対に出ないので、終われば次の実験を考える、その繰り返しが研究の楽しみですね。
また、学会などで「論文を読んだよ」とか「研究室でジャーナルクラブ(JC)に使ったよ」と言われるのは、いちばんの褒め言葉です。JC とは日本語では輪講といい、2時間ぐらい使って論文をすみずみまで読んで内容について議論するもの。その前にも各自で論文を精読しているわけで、本当にうれしい限りです。

———最後に読者にメッセージをお願いします。

大学院時代の恩師、レジー先生がよくおっしゃっていた「If it were easy, someone else would have done it already.(簡単だったら、もう誰かがやっているよ)」という言葉はよく思い出します。研究って、答えが出なくてフラストレーションが溜まることも多いんですが、くじけそうなときにこの言葉を思い出すと、気長に頑張ろうと思えます。研究室の学生たちにも言うんですが、大変なのは当然、大変だからこそやりがいがある。これは、何事にも通じるし、今でも大切にしている言葉です。
それから、サイエンスはコミュニケーションがすごく大切です。ベルギーの研究所でもいろいろな分野の研究者同士でよく話し合いました。私が言った言葉の意味を、他の人が異なって解釈したらコミュニケーションは成り立ちません。言葉や気持ちを共有することは、研究の上でも大事にしたいですね。
世界にはおもしろい研究がいっぱいあります。だから、若いうちはあまり固執しないで、いろんな経験をすることが大切です。機会に敏感になって、サイエンスに限らずワクワクするような経験やチャレンジをたくさんしてください。

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(2024年10月21日更新)