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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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臓器と交感神経の関係にも新たな発見

———最近、注目している研究テーマはありますか?

ひとつは、交感神経が臓器を制御するしくみです。これまでは交感神経という1種類の神経があって、それが脳の指令に従って身体全体を制御するというイメージでしたが、じつは交感神経はひとつではなかったんです。遺伝子の発現パターンで20種類ぐらいに分類できることがわかってきました。私たちが調べたところ、そのうちのいくつかのタイプは特定の臓器を個別に制御しているらしいのです。
交感神経の研究の多くは20世紀前半に解剖学者たちが解明した知見で、いったん完結した分野だと考えられていました。そこを、最新の化学遺伝学やトランスシナプス標識を使って掘り返しているので、さらにおもしろい結果が出てくるのではと期待しています。

———先生が研究のおもしろさを感じるのはどんなときですか。

先行研究を読むのも構想を練るのも楽しいし、実験や論文を書くのもワクワクします。このやり方ならうまくいくぞと仮説を立てて、考え抜いた実験で思った通りの結果が返ってきたときは本当にうれしいですし、予想外の結果が帰ってきたときはもっと嬉しいです。
それから、生物相手の研究は何かと時間がかかります。大学院のころは、遺伝子組み換えマウスを1年がかりでつくって、そのネズミから切り出した切片に予想通りの嗅覚受容体の発現パターンを確認できたときは、やはり感動しました。現在は、CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)*という遺伝子編集技術を使えば3か月ぐらいで新しい系統のマウスをつくれますが、それでも数を増やしてかけ合わすには長い時間が必要です。

* CRISPR/Cas9:ゲノム編集技術の一つ。DNA配列の特定の区画をガイド役のCRISPRが見つけ出し、はさみ役となるCas9が切断することで、ねらった遺伝子の働きを壊したり、特定の遺伝子を挿入したりして、生命の設計図を書き換えることができる。

———最後に、若い読者にメッセージをお願いします。

私が坂野先生からもっとも影響を受けたのは「物事は大きな流れで考えろ」という哲学です。とにかく、50年、100年のスパンで残るいい仕事を考えなさいと。もちろん、その隙間を埋める細かな仕事も大切だけど、そこに5年使うなら、もっと大きなジャンプをめざせと言われました。
みなさんも、流行や最先端の情報ばかりに気をとられず、自分が興味をもつところにまっしぐらに突っ込んでいってほしいですね。科学者の仕事のひとつは、現在の価値観ではとらえきれない新しい価値や技術を生み出すことだと思うんです。数百年前の知見からも多くの学びはあるし、逆に自分の仕事が数百年後の人たちに届くかもしれない。「大事な問題」は、そう簡単には解決しないものです。あなたに解かれるために用意された「大事な問題」が眠っていることを信じてほしいと思います。

2025年度のラボメンバーとともに

(2025年11月6日更新)