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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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T細胞の“先生役”の生い立ちを解明

———研究テーマのヒントを得て、そこでまた研究室を移りますね。

次は、胸腺の上皮細胞について研究しようかな…、などとぼんやり思いながら学内セミナーにもよく顔を出すようになりました。そのひとつに湊長博(みなと・ながひろ 現 京都大学総長)先生の白血病関係のセミナーがありました。湊先生は、本庶佑(ほんじょ・たすく)先生とノーベル賞受賞の対象になった「がん免疫療法」を研究した先生です。私は修士時代に筑波大学で血液内科の研究室にいたこともあったので興味がわいて、講演に参加し、ちょっと小生意気な質問をしたんです。
そのころ湊研では助教を探していたらしいのですが、私は日本学術振興会の特別研究員の採用試験に落ちて、お金もないので専門学校で講師のアルバイトをしていました。そこにたまたま湊研から派遣された先生もいらして、良さそうな子がいると、私のことを湊先生に話してくれたようなんです。湊先生も「セミナーで質問をした子か」と覚えていてくださって、「よければ一緒にやりませんか」と声をかけていただきました。

———湊研で助教をするということは、研究テーマは再び免疫や血液になるわけですか?

上皮細胞で学位を取ったけれど、ちょうど胸腺がおもしろいと思い始めた時期だったし、もう一度、別の視点をもったうえで、血液や免疫に戻ってみるのもいいかもしれないと考えました。そこで湊先生には「胸腺の上皮細胞の研究ができるなら行きます」と(再び生意気にも)お伝えしたところ、「ぼくにはよおわからんけど、おもしろそうやな、いずれにせよ、君みたいな若い人がやりたいことがあるのはええこっちゃ、ええんちゃう?」と承諾してくださいました。そのときに、湊先生が楽しそうにニヤッと笑った姿もよく憶えています。

———胸腺の上皮細胞がシート状からトゲトゲの網目構造になる謎を解明するために、どのような戦略を立てたのでしょう?

私が考えていたことは「胸腺上皮の原基はシート状だからクローディンが発現しており、それが成長にともなって消えて網目状になる、その瞬間をとらえれば何かがわかるだろう」という漠然としたもの。まずは念のため網目状の胸腺上皮でクローディンが消えていることを確認しておこうと、大人のマウスの胸腺上皮細胞を染めてみたんです。すると一部の上皮細胞に、クローディンがギラギラに染まってしまった。びっくりしました。

———仮説とは異なり、クローディンは消えてなかったんですね?

その通りです。胸腺の上皮は網目状でスカスカなのにクローディンを発現していたんです。しかも、その発現パターンは、これまでずっと見てきたタイトジャンクションでのクローディンの染まり方とまったく違う。それをずっと眺めていると、なんとなく胸腺に発現する「Aire」というタンパク質の発現パターンとよく似ていることに、ある日気づいたんです。月田先生にことあるごとに、「よく見なさい」と言われていたので、気づけたのだと思います。このパターンにはきっと意味があると考えました。

———Aireとは、どういうタンパク質ですか?

胸腺は、どんな病原体に出会っても対応できるよう、いろいろなものに反応できるT細胞集団をつくり出します。新型コロナウイルスのように、新しくできた病原体でも免疫が働くことができる理由の一つはこのためです。しかし、なんにでも反応できるT細胞をつくろうとすると、自己組織を攻撃するT細胞もできてしまいます。そこで、その細胞を胸腺の中で除去する必要があります。それを制御しているのがAireというタンパク質で、本来胸腺には存在しない全身の自己組織由来のタンパク質(たとえば膵臓にしかないインスリンなど)を胸腺上皮細胞に発現させて、「自己は攻撃するな」とT細胞に教える先生役なのです。
もしかしたら、クローディンを発現しているのは、Aireが発現する胸腺上皮細胞なのではないか。その仮説がほんとうなら、Aireを発現するこのユニークな胸腺上皮細胞に関する新たな発見です。興奮して湊先生に伝えに走ったことを覚えています。

———仮説を証明するために、何をしたんでしょう。

クローディンにくっつく細菌毒素が知られていました。そこで、その一部に蛍光標識をつけて、その蛍光を目印にクローディンを発現する胸腺上皮細胞を単離しました。すると、クローディンを発現した胸腺上皮細胞でだけ、Aireの発現が特異的に見られることが確認できました。

Hamazaki et al. Nat Immunol. 2007から引用改変

(左)胸腺の中心部分(髄質)には、やや丸っこい上皮細胞(クローディン-3/4:緑)とトゲトゲした上皮細胞(MTS10:赤)がある。
(右)Aire(緑)の発現パターンは、クローディン-3/4とよく似ていることに気づく。クローディン-3/4の発現を目印に、分化途中のT細胞に、攻撃してはならない自己を教えるAire陽性上皮細胞を臓器から取り出すことに成功した。

———Aireを発現するユニークな胸腺上皮細胞は、いつ、どこからやってくるのですか?

まさに、クローディンの発現について発生過程をたどっていけば、それがわかると思いました。実験の結果、胎仔の将来胸腺になる上皮細胞の一部がクローディンを発現し、それが成長するにしたがってバラバラになって、Aireを発現する胸腺上皮細胞へと分化していくことがわかりました。
自己細胞を攻撃しないように教育する胸腺上皮細胞の発生起源を見つけるとともに、実際に移植することでAire陽性胸腺上皮細胞ができること、自己を攻撃してしまう病気(自己免疫疾患)の発症を抑制できることを後に示すこともできました。

Hamazaki et al. Nat Immunol. 2007から引用改変

胸腺がマウスの体内でつくられていく様子を顕微鏡で捉えたもの。緑色はクローディン-3/4。赤は一般的な胸腺上皮マーカー。
クローディンの発現(緑)を、新生児から発生をさかのぼって追跡していくと、Aireを発現する細胞がどこから出てきたのかがわかる。
胎齢10.5〜11.5日:何層かの上皮細胞シートの上の層にクローディンが発現している。
胎齢12.5〜13.5日:シート構造が崩れ網目状となり、クローディンを発現する細胞が胸腺内に島のように散らばっていく。
胎齢16.5日~新生児:成熟につれて島が大きくなり、自己に反応してしまうT細胞を除去したり制御性T細胞をつくったりする領域(髄質:M)ができる。
マウス胎齢11.5日は、ヒトではおおむね妊娠7週ごろ。妊娠12-14週ごろにはT細胞ができ始める。

———オリジナルな成果ですね。

これが私の免疫学分野での初仕事です。2007年に世界的な免疫学の論文誌に掲載されました。
私は大きな成果もないまま湊研に助教として迎えていただいて、やりたいことを好きなだけ研究させていただいたので、絶対に期待に応えたいという思いが強かったんです。査読では厳しい指摘もあり時間がかかりましたが、無事にやりきることができて、うれしかったというより、本当にホッとしました。

湊長博先生(中央)と、親交の深いKing's College London/The Francis Crick InstituteのAdrian Hayday博士(左)を嵯峨野に案内した(2012年 京都での学会のあと)。2人の先生から多くを学んだ。