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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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免疫老化やiPS細胞を使った研究に発展

———その後、胸腺や免疫の研究をどのように進めていったのでしょう?

胸腺の発生経緯を深堀りするうちに、徐々に老化に興味が湧いてきました。じつは胸腺は免疫で重要な働きをするT細胞をつくり、自分の細胞を攻撃しないように教育する大切な臓器なのに、小学生ごろの年齢をピークにどんどん小さくなってしまいます。胸腺の退縮は、免疫の老化とどのように関与するのだろう、ということが気になり始めました。

———免疫の老化といいますと?

高齢になると、ウイルスや細菌などの微生物による感染から身を守る免疫応答が低下する一方で、慢性炎症や自己免疫疾患などが増えてきます。こうした現象を総称して免疫老化といいますが、胸腺退縮により一生のうち早くからT細胞の産生が低下するため、T細胞は特に加齢の影響を受けやすいとされています。そこでT細胞を中心に、免疫老化の原因やメカニズム、加齢関連の疾患との関係を探りたいと考えていたとき、世界をコロナ禍が襲い、ワクチンの一斉接種が始まりました。

———ワクチンと免疫老化に関係があるのですか?

もともと高齢者は感染症が重症化しやすく、かつワクチンも効きにくいことが知られていましたが、新型コロナウイルス感染ではとくに高齢者の重症化が顕著でした。しかし、なぜそのようなことがおこるのか、具体的に高齢者はどのくらい免疫が弱いのか、定量的なデータはあまりありませんでした。そこで、新型コロナウイルスワクチンの一斉接種機会を活用して、その応答を調査できれば、その疑問に答えるまたとないチャンスとなります。すでに海外でもコロナワクチン接種後の免疫応答に関するレポートは出ていましたが、高齢者のデータはほとんどなかったので、一般成人から高齢者まで採血してT細胞に着目したデータをとることにしました。
一般成人の採血は京大や京大病院関係者の協力のおかげで順調に進みました。でも、65歳以上の一般の方にどのように参加いただくかは大きな課題でした。入院患者の家族さえ病棟に入れないなか、健康な方を病院に集めて採血するなんて、よく考えればとんでもない話です(笑)。そんなとき、地元の京都NHKさんが、研究に役立つならと夕方6時台の地方ニュースで呼びかけてくれ、京都新聞さんもご協力くださったんです。地元マスコミの皆さんのおかげでドーンと人も集まり、無事、研究につなげることができました。先生方も、これは大事な研究だから、なんとかやろう!と賛同くださいました。いかに感染対策をしながら研究採血を実施するか、皆で真剣に知恵を絞って行った研究は、本当に貴重な経験となりました。

———その結果、何がわかったのですか。

高齢者のほうがワクチン後の免疫応答は低いと予想していたのですが、実際には年齢差だけでなくそれ以上に大きな個人差があることがわかって衝撃を受けました。人それぞれに年齢とは別の「免疫年齢」があるんだなと実感しました。2021年の最初の採血から5年近く経とうとしていますが、引き続き抗体価などを追跡調査し長期的な免疫記憶の維持について研究を続けています。

湊研引越し前(2017年)

———2017年にはCiRAで研究室を主宰されます。

湊研にいたとき、NHKの人体シリーズの取材があって、湊先生の代わりに私が対応するように言われたのがきっかけです。ついでに番組での解説も頼まれて、収録スタジオで山中伸弥(やまなか・しんや)先生にお会いしました。そのご縁で、「CiRAに来ませんか」と声をかけていただいたのです。
幸いにも、選考の結果、独立の機会をCiRAでいただくことができました。ただ、私はiPS細胞についてはまったくの門外漢です。山中先生からは「今まで通り、いいサイエンスをめざして、好きにやってもらえたら」と言っていただいたものの、最初は所内セミナーの内容もさっぱりわからず、泣き言を言っていました。しかし、大学院向けの講義を聴いたiPS細胞に詳しい大学院生の一人が、「胸腺はおもしろいですね。iPS細胞から胸腺をつくる仕事、僕がやりますよ」とラボに来てくれ、一緒に胸腺の研究を進めることができたんです。シャーレの中で受精卵のようなiPS細胞を使って胸腺のような細胞ができる過程を目の当たりにしたときは、本当にこんなことがおこるのか!と、とても感動しました。

———それが、ヒトiPS細胞を使い胸腺上皮細胞の作製に成功したという2025年夏の論文ですね。

胸腺上皮細胞の機能についても、少なくとも一部は再現できました。ヒトiPS細胞から成熟した胸腺上皮細胞をつくり、T細胞の前駆細胞と共培養してできたオルガノイド(ミニ臓器)で、免疫の司令塔の役割を果たすヘルパーT細胞や、感染した細胞やがん細胞を殺すキラーT細胞など、前述した幅広い反応性をもつT細胞に近い細胞をつくり出すことにも成功したんですよ。

ヒトiPS細胞から作製した胸腺上皮細胞(赤色)と一部の成熟した細胞(緑)

Pretemer et al. Nat Commun. 2025から引用改変

ヒトiPS細胞から分化誘導した胸腺上皮細胞とヒトT前駆細胞とを共培養してできたオルガノイド。

———ヒトiPS細胞でつくった胸腺はどんな可能性があるのでしょう。

ひとつは生まれつき胸腺のない小児先天性無胸腺症の治療です。胸腺がないと数年以内に感染でほぼ例外なく命を落としてしまうので、海外ではすでに胸腺移植が行われています。ただし、移植の成功率は75から80%で、治療費は数千万から億円単位とされています。また、ドナーの確保も課題です。ヒトiPS細胞でつくった胸腺が使えれば、少なくとも今より安価に、そして安定的に治療できる可能性があります。また将来的には、加齢によって胸腺が退縮し、がんを攻撃するT細胞が少ないがん患者さんなどの治療や、自己を攻撃してしまう自己免疫疾患にも使えるかもしれません。臨床までもっていくにはハードルがいろいろありますが、このあたりはキリンビールで臨床開発に携わった経験も役に立ちそうです。幅広い治療に役立てることができたらうれしいですね。

———これまでの研究で最大の転機は?

やはり、クローディンが胸腺上皮に発現していることを見つけたとき、それがAireの染色パターンとそっくりだと気づいたときですね。あとは、ワクチン接種後の免疫応答データを見てヒト免疫の個人差をリアルに感じられたとき、そしてiPS細胞から胸腺上皮細胞らしいものが本当にできたんじゃないかなと、いろいろなデータを見て実感を持ったときでしょうか。どのときも、ざわざわっと、鳥肌が立ちました。こういう感覚を味わえるのは、大学での研究の醍醐味ですね。

———最後に、研究に興味のある読者に向けてメッセージをお願いします。

私は必ずしも研究者を一筋にめざしていたわけではありませんし、望んだところに行けなかった経験を何度もしてるのですが、単純に興味があることを追いかけてきた結果、ここにいるような気がします。じつは、大学院に入ってからも、生物進化と重力、宇宙生物学に興味がわいてNASDA(宇宙開発事業団、現JAXAの前身機関の一つ)やアメリカのNASAまで行ったりもしたんです。でも、この領域で自力でオリジナルな研究を進めていくにはあまりに力不足と感じ、その道はあきらめました。

NASAを訪問したときのビジターカードを見せていただいた。

何事も、一歩踏み出せばその世界が見えるし、それで諦めるなら、また次への踏ん切りがつくと思います。やりたいことは、まずやってみる。それでダメならやめればいいし、そんなことを繰り返している間に、意外と本当にやりたいことが見えてくるかもしれませんよ。

研究が大好きで個性的な現在のラボメンバー(2026年)。

(2026年6月29日更新)