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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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ニューヨークでゼブラフィッシュと出会う

———その後、1998年にニューヨーク州立大学に留学なさいます。

研究もありますが、一度は海外で暮らしてみたかったんです。留学先のポール・ブレーム(Paul Brehm)教授のラボへは、大学院時代にホヤの共同研究のために数週間ほど滞在したことがありました。そのとき「ゼブラフィッシュで新しい研究を始めるからポスドクとして来ないか?」と声をかけていただいたんです。ポールの人柄やラボの雰囲気、大学のある街の暮らしやすさなどで選びました。

———ブレーム教授はどういう方ですか?

科学少年がそのまま大人になったような人です。神経生理学が専門ですが海洋生物にもすごく詳しい。なぜなら、私より少し前の世代は神経の研究といえば海洋生物だったからです。ホヤもそうだし、神経活動が電気で伝わることもイカの研究で発見されましたよね。ポールは下村脩(しもむら・おさむ)先生がノーベル賞をとったオワンクラゲのGFP(緑色蛍光タンパク質)の研究にも関わっています。近年はマウスを使うことも増えましたが、ポールたちは時代の変化も見据えながら海洋生物ならではの研究を続けてきたんです。

———ゼブラフィッシュについて教えてください。

ゼブラフィッシュはメダカほどの大きさで、体にきれいなしま模様が入った淡水魚です。飼育が簡単で繁殖も早く、生後2週間ほどは体が透明で外から生理活動を観察できる。しかも卵生なので受精直後から生きたまま解析実験もできる優れたモデル生物なんです。
そこに注目したドイツの研究グループが、1990年代からゼブラフィッシュの突然変異体の大規模スクリーニングを始めました。体が動かない、目が1つしかない、といったさまざまな変異体をつくって世界中の研究者に公開し、みんなでその原因遺伝子を調べていったんです。

———先生はどんな変異体を調べたのでしょう。

ポールと相談して「形態より、機能に異常のある変異体の方がおもしろそうだ」と考えて、体が麻痺して動けないゼブラフィッシュを調べました。研修医時代にALSの患者さんを診ていた影響もあったかもしれません。この変異体は残っていた卵の栄養でしばらくは生きていますが、やがてエサが食べられずに死んでしまいます。
これを、私たちは生理学的アプローチで調べていきました。ランダムに遺伝子を調べるのではなく、電流による神経伝達と筋肉の動きの相関性を見ながら、ここまでは電気信号が流れているから正常、この先は流れていないから不具合があるのでは?と異常のある場所を絞り込んでいくのです。

———筋肉が動かない理由を、生理的機能から調べていくわけですね。

そうです。動かないのは神経の異常かもしれないし、筋肉収縮を調整するタンパク質の異常かもしれない。それを生理学実験である程度、絞り込んで、最終的に遺伝学で原因遺伝子を特定します。その結果、変異体の麻痺は神経と筋肉の結び目である「神経筋接合部」に原因があるとわかりました。

———神経筋接合部は筋肉運動とどんな関係があるのでしょう。

神経筋接合部は運動神経が筋肉に「動け」という情報を伝える場所です。神経が興奮すると「アセチルコリン」という神経伝達物質が出て、それを筋肉側の「アセチルコリン受容体」が受け取ります。すると、受容体が開いてプラスの電荷をもったナトリウムイオンが流れ込むことで細胞の電位がプラスに変わり、筋肉が収縮するんです。

———調べた変異体は神経筋接合部のどこに不具合があったのですか。

アセチルコリン受容体を構成するタンパク質のアミノ酸が1つ違っていました。すると、アセチルコリン受容体が働かず、神経の情報伝達がうまく行えない。それで体が麻痺していたんです。
ちなみにこの変異体は「sofa potato(sop)」といって、ドイツのグループが当時の流行語「couch potato(カウチポテト:カウチに寝そべりテレビとポテトチップに興じる怠惰な人々)」をもじって付けた名前です。