公益財団法人テルモ生命科学振興財団

財団サイトへもどる

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

サイト内検索

遅筋で泳ぐ常識破りのゼブラフィッシュ!?

———2014年に16年ぶりに帰国して、今度は大阪暮らしですね。

大阪医科大学医学部の生理学教室の教授として着任しました。東大時代の先輩が声をかけてくれました。

———こちらでは、どんな研究に取り組まれていますか。

アメリカでは成果を出すために研究テーマを絞らざるを得なかったんですが、ここは講座制*で私を入れて8人の教員がいるのでテーマも広がりました。「神経系のメカニズム」、「ゼブラフィッシュ」、「電気生理学」といった接点をもちながら、各教員それぞれのテーマで展開しています。私自身は、神経筋接合部をモデルにした研究をしつつ、米国で発見したアセチルコリン受容体の機能についても調べていて、新しい知見がいろいろと出ています。

*講座制:教授・准教授・助教や講師などの異なる職階の教員によって一つの研究室が構成されるしくみ。

———どんな発見ですか?

体が麻痺した魚でどういう遺伝子が増えているかを調べたところ、感染から体を守る遺伝子が増えていました。麻痺していて泳げないので細菌が繁殖しやすい。そこで、体を微生物から守るためにある遺伝子の産物を多く作っていたんです。試しに、その遺伝子をノックアウトした(働きを止めた)ゼブラフィッシュを濁った水に入れると、数日間ですべてが感染症で死んでしまいました。
ちなみに、発見した遺伝子は大阪医科大学(Osaka Medical College)の頭文字をとってomcin5(オムシン5)と命名しました。2021年に大阪薬科大学と統合して大阪医科薬科大学となったので、旧名を残せたのは良い記念になりました。

———世界で初めて“遅筋だけで動くしくみ”も発見しています。

これも、アメリカでの研究の発展です。遅筋に従来型とは異なる分子構造のアセチルコリン受容体があるゼブラフィッシュを発見して、そのままになっていたんです。改めて、受容体の性質を調べるために、速筋のアセチルコリン受容体の構成分子をノックアウトした(つくれないようにした)ところ、速筋にアセチルコリン受容体がない変異体ができました。興味深いことに、この変異体は速筋に情報伝達できないのにちゃんと泳ぐんです。さらに調べると、成長するにつれて本来なら速筋を制御する脊髄からの刺激で遅筋を制御できるように神経回路がつなぎ変わっていました。だから、最初は遅筋を使ってゆっくりと泳いでいたんですが、成長して大人になるころには正常な魚と遜色なく泳げるようになっていました。

———速筋は100m走のときなどに使う筋肉で力強いけどすぐに疲れてしまう、遅筋はマラソンを走るときに使う筋肉で持久力があり疲れにくい、という話は聞いたことがありますが…。

速筋と遅筋の違いについては知られていますが、これまで運動神経との接続のメカニズムについてはよくわかっていなかったのです。
このほか、ゼブラフィッシュは「活動電位」を使わずに筋肉収縮できることもわかりました。運動神経が興奮すると筋肉の膜で「終板電位」と呼ばれる小さい電気信号が発生し、それが引き金となって「活動電位」と呼ばれる大きな電気信号を発生させ、筋肉が収縮します。ところが遺伝子改変技術を使って、活動電位を起こせないゼブラフィッシュの変異体を作成したところ、運動神経から伝わった終板電位が直接、筋肉を動かしていることがわかりました。これは、生理学の常識をくつがえす現象です。
また最近では、外科教室や精神科教室との共同研究で、腸管の動きを制御する神経ネットワークや精神病との関連が疑われる遺伝子の研究にも取り組んでます。

———基本的な生理機能にも新たな発見があるんですね。

ほ乳類と魚類は筋肉の機能が似ているからモデル生物として使われてきたのですが、細かな違いがわかってきた。そこで、改めてホヤやゼブラフィッシュのようなモデル生物とほ乳類の筋肉の性質を整理して、定義し直そうと考えています。そうすれば、モデル生物の研究をヒトに応用する場合の新たな指針になると思います。

———それは楽しみです。ちなみに先生の最近の楽しみは何ですか。

まず、大学で教えることですね。アメリカではほとんど授業をしなかったから気づかなかったんですが、教えるのも、学生の相談にのるのも楽しいです。個人的には近頃はサウナにハマってます。それから、語学ではロシア語を勉強中。最近はAIもありますが、語学を学ぶ目的は翻訳することだけじゃない。ロシア語を学べばその文化や歴史まで知識が広がりますからね。

———最後に、先生にとって研究のおもしろさとはなんですか。

誰も知らないことを探ること。それを自分で見つけることですね。それから、研究しているうちに自分が思いもしなかった方向に発展するのもおもしろい。抗生物質の発見だって偶然、プレートにカビが生えてその影響に注目したからでしょう。最初の目的を突き詰めていく研究もあると思いますが、私は、おもしろそうな方を選びながら進んできました。みなさんも、深く考えすぎないで興味のある方向に進んでみてはと思います。

(2026年8月7日更新)