中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

ミトコンドリアDNA分析でわかった「人類のルーツはアフリカ」

それにしても、いったいどのように、DNAを分析し、人類の移動や日本人のルーツを突き止めていくのだろうか。
「DNAは細胞の核に存在しますが、細胞質の中にあるミトコンドリアというエネルギーをつくっている小さな器官にも存在します。これがミトコンドリアDNAで、核のDNAが30億塩基対あるのに対して、ミトコンドリアDNAは約1万6500塩基対と、20万分の1の非常にコンパクトなサイズで環状のDNAです。このミトコンドリアDNAは、進化の研究にとても有効ないくつかの特徴をもっているんです」

まず、核DNAにくらべて突然変異の起こるスピードが速いこと。たとえばチンパンジーとヒトの核DNAの塩基配列の違いはわずか1%にすぎないが、ミトコンドリアDNAでは9%違うことが知られている。数千年オーダーの比較的短い間のDNAの変異をたどるのに適しているというわけだ。
また、ミトコンドリアDNAは数が多い。ひとつの細胞の中に核はひとつだが、ミトコンドリアは数百個含まれているうえ、ミトコンドリア1個にミトコンドリアDNAが5~6個存在するため、残りやすいのだ。古い骨や歯などの保存状態が悪い場合でも、PCR法という方法で増幅してやることで分析可能なケースが多いという。
そして第三が、ミトコンドリアDNAは母親のものだけが子どもに伝わり、父親のものは次世代には継承されない遺伝様式のため、系統関係の復元に適しているということ。
「たとえば10代系統をさかのぼることを考えてみましょうか。核DNAの場合は、それぞれの両親のDNAを受け継ぎます。10世代前の祖先は2の10乗=1024人、それぞれが46の染色体を持っているわけで、染色体のどの部分が1000 人もの祖先の中のどの染色体に由来するかを特定することは、不可能に近いんです。しかし、ミトコンドリアDNAであれば、お母さんのお母さんと母系をたどっていけばいい。10世代前でも常に一人の女性 に行き着くのです」

こうして世界各地のさまざまな集団のミトコンドリアDNAの解析の結果、現代人の共通祖先として、一人のアフリカの女性にたどり着いた。
「母系でつながっていくミトコンドリアDNAを使った分析ですから、この女性は“ミトコンドリア・イヴ”と呼ばれました」

人骨の調査

遺跡などから発掘した人骨や歯から採取したDNAを分析する(写真提供:篠田謙一)

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