中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

ユニークな蛍光タンパク質を探せ!

蛍光タンパク質をもつ生物はオワンクラゲだけではない。たとえばサンゴやイソギンチャクなどもそうである。

新たな特徴をもつ蛍光タンパク質を求めて、宮脇先生率いる研究チームは、沖縄など日本近海に出かけてさまざまな海洋動物を採取してきた。時には都心のサンゴショップでサンゴを購入することもあった。こうした動物サンプルを材料に、蛍光タンパク質の遺伝子のクローニングを行い、世界をリードする研究成果を次々に発表してきた。

サンゴショップの水槽で極彩色に光っていたオオバナサンゴ

サンゴショップの水槽で極彩色に光っていたオオバナサンゴ

2002年、宮脇先生は東京浅草のサンゴショップで色鮮やかなオオバナサンゴを買ってきた。このサンゴを材料にすればさまざまな色の蛍光タンパク質の遺伝子がクローニングできるだろうと期待したのだという。しかし次から次へと取れたのは緑色のもの一種類だけ。思案に暮れるうちにある事件が起こる。実験助手が、うっかり緑色のサンプルを実験机の上に放置したまま帰宅した。そうして翌日の昼過ぎに、真っ赤に変色したサンプルが発見されることになった。一方、きちんと箱の中にしまっておいたサンプルは緑色のままだった。

「見た瞬間に、太陽光(紫外光)によって、フォト・コンバージョン(光変換)が起きたのだと確信しました。光を浴びると緑から赤へ変色するこのタンパク質を私たちは『カエデ(Kaede)』と命名しました」

Kaedeの遺伝子を導入した神経細胞の一部に、紫外線を短時間照射することで、緑から赤に向かってさまざまな程度で変色を起こすことができる。複雑にからみ合う神経細胞のひとつひとつを異なる色でハイライトすることが可能になった。

培養したラット海馬神経細胞にKaedeの遺伝子を導入したもの

培養したラット海馬神経細胞にKaedeの遺伝子を導入したもの。左は緑色に光っている。右は、半導体レーザー(405nm)で、一番上のものに0.5秒、下の細胞の一部に0.25秒間の照射を行ったもの。長く当てた細胞は赤く、短いものはオレンジ色に変化している。

次に宮脇先生の研究チームは、沖縄の海で採集したアナキッカサンゴの蛍光タンパク質の研究にとりかかった。

アナキッカサンゴ

アナキッカサンゴ

「最初見たときの感想は、なんて地味なサンゴ! だからあまり期待していませんでした。ところが、このサンゴから遺伝子クローニングした蛍光タンパク質は実に鮮やかな緑色をしていました。さらに驚いたことに、この蛍光タンパク質をどんどん変異させていくうちに、ユニークな特性が出現してきたのです。青色の光を当てると蛍光が消えていくのですが、紫色の光を当てると蛍光が100%回復するのです。消えては現れるこの蛍光タンパク質を、忍者にちなんで『ドロンパ(Dronpa)』と命名しました」

ケンタくん

細胞増殖や分化、遺伝子発現、アポトーシスなどに関与するMAPキナーゼという酵素をDronpaで標識したところ、細胞内の核と細胞質の間を行ったり来たりする動きを何度も追跡することができたという。

「Kaedeはお色直しが一回しかできませんが、Dronpaはそれが何度でもできる蛍光タンパク質といえます。いったん赤色に変わってしまったKaedeは二度と緑色に戻ることはありません。一つの細胞で異なる条件下で生体分子の動きを追跡するためには、何回も明暗を繰り返し制御できるDronpaが威力を発揮するのです」

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