中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

優秀な「分子スパイ」を育てる醍醐味

宮脇先生のバイオイメージング技術の革新は多岐にわたる。さらに、生命の根源といえる細胞増殖に取り組んでいる。

図

細胞は、G1期(複製準備)、S期(DNA複製)、G2期(分裂準備)、M期(染色体分配、細胞分裂)を経て分裂する。フーチは、G1期の核を赤に、S/G2/M期の核を緑に染色する。

「細胞は分裂を繰り返して増殖します。細胞分裂をするサイクルを細胞周期といいます。細胞周期は分裂が起きるM期、DNAの複製が起きるS期、そしてそれらの間をつなぐG1 期、G2期からなっていて、そのサイクルはG1→S→G2→M→G1というふうに進みます。がんや発生・再生の研究では、細胞周期の進行の時間的・空間的パターンを観察することが重要ですが、従来のイメージング技術ではなかなか達成できませんでした。私たちが開発した『フーチ(Fucci)』という蛍光プローブ*を使えば、そうした観察が簡単にできるのです」

Fucciを細胞に導入すると、G1期には赤色、S/G2/M期には緑色の蛍光が核に出現する。この技術を活用すれば、腫瘍の良性・悪性の鑑別や、転移のプロセスをリアルタイムで観察することできるのだ。多能性を持つ人工の幹細胞として期待が高まるiPS細胞であるが、移植後に起こるがん化をチェックする目的にもFucci技術は活躍すると思われる。

*蛍光プローブ:蛍光タンパク質などからつくられる、生体内の特定の物質や部位、状態を可視化するための蛍光色素やその方法のこと

胎生13日のマウスの大脳皮質の組織を蛍光観察した例

胎生13日のマウスの大脳皮質の組織を蛍光観察した例
細胞増殖が盛んに起こっている場所は緑、分化を終えたニューロンは赤く光っている

宮脇先生は蛍光タンパク質やこれを使って作製される蛍光プローブを「分子スパイ」と呼んでいる。細胞に察知されないようこっそり潜入して諜報活動を行うことを要求されるからだ。

「これからも分子スパイのエリートを養成して、細胞やタンパク質の働きを探り、さまざまな謎に迫っていきたいですね。蛍光タンパク質を使って『できたらいいな』『あったらいいな』というアイデアをリストアップし温めています」

蛍光タンパク質の研究はまだ始まったばかり。もちろん、他にもわくわくする研究や、探究心が必要な分野は無数にある。「見る前に跳べ」の精神でいろいろなことにチャレンジしてほしいと、宮脇先生は若い人たちに呼びかけている。

(2012年2月9日取材)

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