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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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「頭でっかちはダメ」と考えていたとき、ミミズに出会う

中村先生は、大学院の修士課程までは制御の研究をしていた。

「制御の研究というのは、ロボットを頭と体とに分けるとすると頭のほう、脳味噌系の研究です。ところが制御の研究ばかりやっていると、システムが頭でっかちになってしまうことを感じるようになりました。頭はとても賢いのに体の方が貧弱になってしまっては、システムとしてのバランスが悪くなってしまいます。特にいろいろな環境に適応するようなシステムをつくろうとしたとき、頭でっかちではダメで、ハードをしっかりつくり込まなければいけない。むしろ体をしっかりとつくって、脳味噌は軽くシンプルなほうがいいのではないかと考えるようになったのです」

そんなときに出会ったのがミミズだった。当時中村先生は、秋田県立大学で助手(今の助教)をしていた。
「秋田県立大学は田んぼの真ん中にポツンとある大学です。大学まで歩いて通っていたのですが、田んぼの畦道にミミズがたくさんいて、それをなんとなく見ているうちに、ミミズの動き方に興味がわいたんです。ミミズは土の中の狭い隙間を自由に移動しているけれど、いったいどんなふうに動いているんだろうと」

調べてわかったのは、ミミズの動きにはほかの生物にはない特徴があることだった。ミミズは「蠕動運動」といって、体を構成する多数の体節の伸縮を利用して狭い隙間を移動していく。多くの動物に見られる脚を使った移動方法と比べると、非常に単純な動作で移動を実現していた。
「ミミズの体は約150の体節からなっていて、その1つ1つの体節を順に『太く短く』-『細く長く』と伸び縮みさせていく蠕動運動によって進みます。実は蠕動運動とは人間の食道や腸にも見られる運動で、筋肉の収縮を波のように伝えることによって対象物を移動させる運動です。蠕動運動による移動は、速度が遅く、一見すると効率が悪いように見えますが、人間はもちろん、ヘビや尺取り虫などと比べても移動に必要な空間が最も小さく、体の断面とほぼ同程度の空間があれば移動できる。あらゆる生物の移動の中でもおそらく一番狭い空間を移動できるのがミミズではないかと思います。ミミズの場合はほかにも、体全体を使って移動するので牽引力が強く、中を空洞にできるという利点もあります」

ミミズの進み方
1 前方の体節が太く短くなる(地面との摩擦が大きくなる)
2 太く短い体節が後ろへ移動していく(後ろの体節が前へ引っ張られる)
3 ミミズの前の体節は細く長くなる(ミミズが前に進む)
4 細く長い体節は後ろに移っていく(ミミズはどんどん進む)

さまざまな移動様式と移動に必要な空間

ミミズって、自分のからだのサイズぐらいのわずかな空間があれば移動できるんだね!