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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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揉みほぐしながら混ぜて運ぶ“蠕動運動型ポンプ”

この人工筋肉と、先に紹介したミミズの蠕動運動を組み合わせたのが、蠕動型運動ポンプだ。
ミミズと同様、大腸も蠕動運動で動いている。ミミズの場合は外側の体節を動かしているのだが、大腸は内側で起こす蠕動運動によって胃から送られてきた内容物を肛門の方へ移動させている。中村先生は同じ蠕動運動をするものとして大腸の働きにも着目。人工筋肉によって大腸の蠕動運動の機能を再現することで、これまで運ぶことが難しかった物質もラクラクと運べるようになるのではないかと考えた。

腸の蠕動運動、腸壁を形成する縦走筋と環状筋の2層の筋肉が収縮と弛緩を繰り返し、その波によって内容物を肛門側へと送り出す。そして分節運動と振子運動によって内容物を混ぜ合わせる

「たとえばハチミツをストローで吸おうと思っても、水は吸えるけれどもハチミツは吸えませんよね。これと同じで、高粘度のものをパイプで吸い上げようとしてもなかなか難しいものです。今まではどのようにやっていたかというと、とてつもなく大きいピストンを使って下からかなりの力で押し上げていたんですね。でも効率が悪いし、パイプが曲がっていたりするとさらに吸い上げるのが難しくなる。われわれが開発した蠕動運動ポンプはストロー自体がムニュムニュ動くので、ハチミツのように流れにくいものもスムーズに吸い上げられるし、粉体も容易に運ぶことができるんです」

人工筋肉と組み合わせた蠕動運動型ポンプにはほかにもすばらしい特徴があった。それは、混ぜながら搬送する技術だ。
「混ぜるというときに連想するのはジューサーとか洗濯機ですが、あれは下のほうをモーターで高速回転させて全体を巻き込んで混ぜています。これに対して揉みほぐしながら混ぜるのが蠕動運動型ポンプ。この揉むという作業はモーターを回転させるやり方ではできないんですね。蠕動運動型ポンプなら、固体と液体がグニャグニャに混じったものも搬送できるし、混ぜながら搬送するという離れ業もできるんです」

こうした蠕動運動型ポンプの特徴に注目したのが固体ロケットのエンジン開発を行っているJAXAだった。固体ロケットの燃料をつくるには、酸化剤や燃料材などいくつかの配合剤を混ぜて固める必要があるが、粉体とそれを結合させる液状ゴムとを混ぜなければならずつくり方が難しい。また一度に大量につくれないため製造と充填を何度も繰り返す必要があり、しかも機械化が難しいことから人力に頼っているのが現状で、効率よく製造し搬送する技術の確立が課題だった。
そこで動き出したのがJAXAと中村研究室との共同研究だ。研究が実り、大腸の動きを模した蠕動運動型ポンプを使って固体ロケット燃料を連続的に生成する装置が完成。2018年2月には、生成されたロケット燃料の燃焼実験に世界で初めて成功した。

蠕動運動型ポンプ

ポンプを構成している1ユニットの断面図

軸方向に収縮

内側に膨張

大腸の混合動作
ユニットの外側に人工筋肉を配置し、内側にゴム円筒チューブを配置することで、大腸管の環状筋と縦走筋に見立てた機構を実現。内部に空気圧を加圧すると、ユニットは長軸方向に収縮するとともに、円筒ユニットの内側が膨張し、ユニット内部の空間が狭くなる。複数のユニットが連結されることにより、ユニット間と往復して物質が移動、混合されていく
写真と図版提供:中村研究室

蠕動運動型ポンプによる混合の様子

攪拌実験 動画提供:中村研究室