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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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ミミズや生体の動きに着目したロボットで、未来を動かせ~中央大学理工学部・中村研究室を訪ねて~

ミミズやアメンボ、カタツムリなどの生きものの動きをヒントにユニークでオリジナルなロボットを開発。JAXA(航空宇宙開発機構)やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)をはじめ、民間企業などとの共同研究を精力的に展開しているのが中央大学理工学部の中村研究室。宇宙や深海で活躍するロボットや人工筋肉を用いて人をアシストするロボットなど、実用化に向けた取り組みが着々と進んでいる。身近な生きものから学ぶロボットの発想はいったいどこから生まれたのだろうか?
生物や生体の動きに着目した「バイオメカトロニクス」

東京都文京区、東京メトロ・後楽園駅から徒歩5分の中央大学後楽園キャンパス。正門を入ってすぐの2号館、スカイツリーを望む7階に、中村太郎先生の研究室がある。

中村研究室は、「バイオメカトロニクス研究室」と名づけられている。バイオメカトロニクスとは、Bio(生物・生体)+Mechanics(機械)+Electronics(電子)の3つを組み合わせた学際的な領域で、同研究室のキャッチフレーズは、「生物や生体の動きに着目したロボットで、未来を動かしたい」。

研究室内はまるで“オモチャ箱”のようだ。プシュー、ポワーンという音を立てながら、一つ一つの円筒形ユニットが膨らんでは元に戻り、次々に隣のユニットへと渡していくように動いているのは、蠕動運動型ポンプ。JAXAとの共同開発で、扱いが難しい固体ロケット燃料を安全かつ効率的に製造するロボットなのだという。「ここに指を入れてみて」と先生に言われるがままに、一つの円筒ユニットの内側に中指を入れると、キュワーンとソフトに指が締め付けられたあと、ふっと締め付けがゆるむ。なんだか不思議な感触だ。

蠕動運動型ポンプの動く様子。動画提供:中村研究室

一つ一つのユニットについている弁から空気が送られ、膨張しては元に戻り、材料が混ぜ合わされる。

一方、奇妙な音を立ててウニョウニョと風船が膨らんだり縮んだりするようにしてパワーを発揮するのが空気圧ゴム人工筋肉。天然ラテックスゴムを使っているので、さわってもポニョポニョしていて痛くない。これは、柔軟で軽量なパワーアシストスーツなど、医療・介護分野や農業、工場。流通分野での応用が期待できるのだという。

空気圧ゴム人工筋肉の説明をする中村先生

黒い竹輪のような分節を構成しているメインの素材が天然ラテックスゴム。ゴムチューブが膨らんでは元に戻る力を利用する

「我々の研究室では、これらミミズの蠕動運動にヒントを得たロボットや、全方向へと移動できるカタツムリの動きを模したものなど、さまざまな生物型ロボットを開発しています。“生きものそっくりに動く”ことがゴールではなく、そこから応用にまで昇華させることをめざしていて、宇宙での活用や資源探査、極限作業をはじめ、人工筋肉のソフトロボティクスの分野でもいかに医療や介護に役立つものに展開できるか、実践に取り組んでいるのが特色です」

特許は昨年だけで10件で、これまでで約100件。2017年度の企業との共同研究は約30件、そして2017年9月には、ラボでの研究成果をもとに応用開発をめざすベンチャー企業も設立したという。

中村 太郎(なかむら・たろう)

中央大学理工学部精密機械工学科教授

1975 生まれ。2003 年信州大学大学院工学系研究科博士後期課程修了1999年年秋田県立大学助手。04年中央大学理工学部専任講師。06 年同大学准教授を経て13 年より現職。12‐13 年スイス連邦工科大学ローザンヌ校Visiting Professor。工学博士。
人工筋肉や機能性流体等のスマートアクチュエータの開発と制御、および生物を規範としたバイオロボティクスの開発と応用に従事。09 年日本ロボット学会研究奨励賞。10 年日本機械学会研究奨励賞。11 年文部科学大臣表彰若手科学者賞などを受賞。17年9月、ラボの山田泰之助教らとともに、これまでの研究成果を基にベンチャー企業「SoLARIS Inc. (株式会社ソラリス)」を設立。最先端の空気圧人工筋肉や生物型のソフトロボットの事業化・実用化を進めている。