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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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まだまだ興味がつきない体内時計の謎

先生は高校生のころから体内時計に興味があったのですか。

いや、何も考えていませんでしたね(笑)。大学に入学して、神経回路網の可視化の大家である工藤佳久先生の脳科学の授業がとてもエキサイティングで、そのままゼミに入り、大学院に進んで・・と導かれるように進んできました。工藤先生は「これからは光イメージングの時代だ、これを極めれば食いっぱぐれることはない」とおっしゃって、私も大学4年のころから、神経突起のイメージングに取り組みました。その後留学して、海馬の膜電位の記録、網膜の視神経の研究、そして現在の体内時計の研究に至っているわけです。一貫して、光で脳を見たい、知りたいと考えてきました。

光イメージング研究のおもしろさはどこにありますか。

一般的な研究は、ある仮説を立ててそれを証明するために実験や研究を進め、一歩一歩真実に近づいていくのですが、イメージングのおもしろさは、データを見ていきなり新たな発見ができることです。こうしたときは本当にエキサイトしますね。

今後はどのような研究をしようと考えているんですか。

これまでは神経細胞をスライスして、培養皿の上で体内時計のリズムを可視化してきましたが、生体内でどのように体内時計に関係する神経ネットワークが情報をやり取りしているのかは解析できていないのです。
世界中の研究者が、マウスの脳に光ファイバーを刺したり、顕微鏡下で生きた脳の活動を見ようとチャレンジを続けています。私も生体内のネットワークを可視化したい!
それともうひとつ、ちょっとアプローチの仕方を変えて、培養ディッシュ皿の上に神経細胞を自在に配置して、人工的に中枢時計細胞ネットワークを再構成する研究もおもしろいと考えています。

体内時計に関しては、まだまだ解明すべき謎がたくさん残っていそうですね。

生活習慣病と体内時計の関係や、がんやその他の疾患との関連などの研究が進み、先ほどお話した時間医療や、体内時計を調節する薬剤の研究も進んでいます。体内時計がDNAの修復や細胞周期のタイミングをどのようにコントロールしているか、あるいは体内時計と老化や寿命との関連など、解明すべき点はまだまだあります。
そうそう、昨年、記憶と体内時計の関係に関する論文が出ましたが、こうした研究などはみなさんも興味があるかもしれませんね。

いったいどんな研究ですか?

東京大学の深田吉孝教授のチームが、マウスの記憶のしやすさが学習する時刻によって大きく異なること、そのリズムは脳の海馬に存在する体内時計が制御していて、マウスの活動期のはじめに、海馬の細胞膜にあるSCOPタンパク質が分解されて記憶力が上昇することをつきとめたんです。マウスの活動期は夜ですから、ヒトにあてはめると、学習効果のピークは午前中といえるかもしれませんね。

ほら、午前中だって!覚えておくといいわよ、ケンタ君。

発生発達のどの時期から体内時計が働くようになるかも興味深いテーマです。

いったいいつから時計が動き出すニャン?

では最後にクイズを出しましょう。多くの生物の細胞には体内時計が備わっていますが、細胞を初期化してつくり出されたiPS細胞では、体内時計はリズムを刻んでいるのでしょうか?

1.
初期化されたiPS細胞には体内時計はない
2.
初期化されてiPS細胞になった段階から体内時計のリズムを刻む
3.
iPS細胞になったときは体内時計があるが、時間が経つと消失する

正解だと思う番号をクリックしてね!!

正解は1です。京都府立医科大学八木田和弘教授の研究によると、iPS細胞に体内時計はなく、培養皿の上で目的の細胞に分化させていく過程で、体内時計のリズムが現れてくるんです。そして体内時計があらわれた細胞を再度iPS細胞に戻すと、再び体内時計はリズムを刻まなくなる。可逆的に出現したり消失したりするというわけです。ES細胞でも同様なんですよ。

まったくもって不思議だなぁ! こうしてお話をうかがうと、生物にとって時間とは何かや、生物が1日や1年をどう刻んできたか、例えば地中のセミがどう時間を知るのかなど、知りたいことか次々に出てきます。

ぜひいろんな疑問を引き出しに入れて、折りにふれて考えてみてください。そしてただ本を読むだけで分かったような気にならずに、自分自身で体験してみることも大切ですよ。

(2017年8月28日公開)