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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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ニューロンとニューロンの隙間を埋めるグリア細胞

やあ、みんなは脳の中にあるのはニューロンだけなのか、疑問を持ったというわけですね。そう思うのも無理はありません。ちょっとこの図を見てください。これはスペインの有名な神経解剖学者であるラモン・イ・カハール博士が20世紀初頭に描いた脳のニューロンのスケッチです。

このスケッチでは、ニューロンの軸索がきれいに伸びているけれど、なんだか隙間だらけだわ!

ニューロンだけが描かれていますからね。みんなのイメージもこれに近いかもしれないね。昔、1960年代半ばに「ミクロの決死圏」というアメリカのSF映画があったのを知っていますか。敵の襲撃によって脳に障害を負った天才科学者を治療するために、医療チームと潜航艇がミクロサイズに変身して人体に入り込み、脳を治療するというストリーです。でも実際の脳の中は、この図のような隙間があるわけではないので、潜航艇なんて走れないんですね(笑)。

面白そうな映画だけどなあ。

隙間を埋めているものはいったい何ですか?

それがグリア細胞です。「グリア(glia)」は膠(にかわ)や糊を意味する英語の「glue」と同じ語源で、文字通りニューロンとニューロンをくっつける役割をしている細胞なんです。

glia=膠(ニカワ) 
グリア細胞=神経膠(こう)細胞

グリア細胞は何種類ぐらいあるんですか。

アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアの3種類です。これらのグリア細胞の数は神経細胞よりずっと多く、また高等生物ほどその数が多いのです。

ええっ、そうなんですか! 脳の細胞といえばニューロンのことばかりに目が向いていたので、別の細胞が脳の中にそんなに数多くあるなんて知らなかったわ。

実際、1970年代くらいまでは、グリア細胞はあまり重要視されていなかったんです。脳の主役はあくまで神経細胞であって、グリア細胞はニューロンの働きをサポートする支持細胞で脇役にすぎないと考えられていました。ニューロンは活動電位があるけれど、グリア細胞からは電位が取れなかったので、たいした働きがないと考えられていたんだね。
ところが、20世紀後半になって細胞内のカルシウム濃度を測定したり、二光子レーザー顕微鏡など脳を観察する技術が急速に進んだおかげで、これまで知られていなかったグリア細胞の働きが分かるようになったんです。
そして、研究が進むにつれて、3種類のグリア細胞それぞれが強烈な個性と多様性を持ち、脳の高次機能にかかわる影の主役とみなされるようになったというわけです。