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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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常識を覆すことが研究者としてのやりがい

グリア細胞がこんなにも脳のさまざまな活動に関係していたなんて知りませんでした! お話をうかがって、今日は驚くことばかりです。

グリア細胞は、まさにニューロンをあやつる黒幕といっても言い過ぎではないでしょう。私たちの研究グループは、これらのグリア細胞が巨大なネットワークを作って脳の機能に働きかけていると考えています。グリア細胞同士、グリア細胞とニューロンがコミュニケーションをとりながら活動し、私たちの脳の恒常性を保つ働きをしながら、記憶や学習といった脳の高次機能にかかわっているのです。
私たちはこのような巨大なネットワークを「グリアアセンブリ」と名づけました。いまでは、グリア細胞の多くの研究者たちが「グリアアセンブリ」という考え方を共有してくれるようになっています。

池中先生がグリア細胞の研究を始めたきっかけはなんですか。

最初はがんの研究をしていて脳の研究はしていなかったんです。アメリカに留学していて、ある因子のクローニングをしていたのですが、日本に帰ってきたら脳神経の研究をやれと命じられたわけですよ(笑)。最初は困ったなあと思ったのですが、むしろ脳に対する先入観がなかったから、ニューロン第一主義からは自由だったといえるんじゃないかな。研究を進めるうち、グリア細胞がどうも重要な働きをしているのではないかということが見えてきた。それに、ニューロンの研究はすでに多くの人がやっているので、それならグリア細胞を研究しようと・・・。

先生の最近の研究でのトピックを教えてください。

オリゴデンドロサイトがどのような種類の神経細胞に対して髄鞘を形成するのか、その詳細はこれまで明らかになっていませんでした。そこでオリゴデンドロサイトとニューロンを同時に標識することで、オリゴデンドロサイトがどの種類のニューロンの軸索に巻き付いているかを可視化する手法を開発しました。感覚をコントロールするニューロンを青色、運動をコントロールするニューロンを赤色で光らせて観察したところ、一部のオリゴデンドロサイトは、感覚や運動をコントロールする特定のニューロンを選別して髄脳を形成していることが明らかになったのです。私たちのこの研究はアメリカの生命科学誌「GLIA」2017年1月号に掲載され、その写真が表紙を飾ったんですよ。

緑は標識されたオリゴデンドロサイト、赤は左半球から投射する軸索、青は右半球から投射する軸索

「GLIA」誌 2017年1月号 

先生たちが開発したこの手法はどんな可能性を持っているのですか。

先ほど一つのオリゴデンドロサイトは50本もの軸索に巻き付いているとお話ししました。オリゴデンドロサイトはなんらかの原理原則があって軸索を選別しているのではないかと考えられます。それを解明していきたいですね。

研究のおもしろさはどんなところにありますか。

研究者としてみんなの常識を覆すことができたときですね。1992年にこの生理学研究所に赴任してきたとき、まだグリア細胞についてほとんどの人が認識していませんでした。それが今では、グリア細胞の重要性を多くの脳研究者が認めるようになったことがとてもうれしいですね。

「研究者になりたい!」と考える中高校生にメッセージをお願いします。

そのとき流行っているテーマを研究しているだけでは、研究者として一人前になれないでしょう。みんなが着目していないテーマでも、すごく大切なことだと考えたら、たとえ周りから「なんでそんなものを研究しているんだ」と言われても、自分を信じて研究生活を送ってほしいな。

(2017年10月30日取材 2017年12月公開)