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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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グリア細胞が関係する病気のいろいろ

グリア細胞がうまく機能しなくなると、どうなるんだろう?病気になっちゃうのかな?

グリア細胞が関係する病気はいろいろあるんです。例えば、アストロサイトに特異的に発現する遺伝子としてGFAP、MLC1などがあり、これらの遺伝子の異常によって発症する病気があります。
そのうちの一つが「アレキサンダー病」です。この病気は主に幼児期に発症し、けいれん、頭部の拡大、精神発達遅延が主な症状となって表れます。さらに学童期、成人期以降から発症すると、嚥下(飲み込み)障害、手足の運動障害などが表れる病気です。

GFAP遺伝子はどんな働きをしているのですか

アストロサイトの働きを安定させる機能を持っています。この遺伝子が異常をきたすことによって異常なアストロサイトが産生され、神経障害を引き起こしアレキサンダー病の発症につながると考えられています。
また、「脱髄疾患」もグリア細胞と関係がある疾患です。脱髄疾患は、髄鞘がいったん形成された後に障害されることで起きる病気です。髄鞘が障害されると、先に話した跳躍伝導ができなくなり、神経の伝達速度が遅くなり、「多発性硬化症」といって手足のしびれや運動麻痺、感覚麻痺、視力障害などを引き起こします。
そして、最近の研究で、脱髄が起きる前の初期の段階で、すでに認知障害が起きていることが分かってきたのです。

どんな研究ですか。

私たちは、脱髄と脳の関係を解明するために「慢性脱髄モデルマウス」を樹立しました。このマウスは、生後7カ月ごろまでは正常に髄鞘形成が進むのに、8カ月齢ぐらいになって突然、脱髄がおきるのです。ところが、髄鞘が正常だと思われていた2カ月齢で、伝導速度が半分になり、運動や知覚に影響はないものの、ヒト統合失調症で見られるような認知機能障害をきたしていることがわかりました。

そのマウスのどこかがおかしくなっていたのですか?

なんと、髄鞘と軸索の接点のほんの一部が欠けていただけなのです。興味深いことに、脱髄マウスに統合失調症で処方される抗精神薬を与えると髄鞘形成が促進されるんです。おそらく統合失調症などの精神疾患と髄鞘形成は何らかの関係があるのではないか。実際、統合失調症の患者さんの死後脳を観察すると、髄鞘が集まっている脳の白質の異常が認められており、髄鞘をつくる遺伝子異常などが疑われています。

グリア細胞と脳の働きは深い関係がありそうですね。

その通りです。ミクログリアが関係するシナプスの刈り込みで、何らかの影響でミクログリアが異常活性をおこすと、必要以上にシナプスを刈り込んでしまい、それが自閉スペクトラム症と関係することもいわれています。
今後は、高次脳機能の障害についても、ニューロンだけの研究からグリア細胞を含んだより広範な研究に移っていくのではないでしょうか。